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第192話
一緒に暮らしていてもお互い話す時間もまともに取れないが、朝霧が朝起きると机には美味しそうな朝食が並び、夜中ふっと目を覚ますと、後ろから抱きしめられているぬくもりがある。
そんな生活のおかげで朝霧のメンタルは落ち着いてた。
そんな朝霧を嘲笑うように音羽からメールが届いた。
メールの受信は土曜日だったけれど、夏川は出勤していた。
「一度話したい」
音羽の文面はそれと待ち合わせ場所と時間のみが書いてあった。
朝霧も音羽とは話す必要があるとは思っていた。
ただ夏川から音羽と2人では絶対に会うなと言われている。
しかし夏川は職場で体調不要のスタッフが立て続けにでてしまい、寝る時間も惜しんで働いている状況だった。
夏川は昨日は職場に泊まり込んでいて、今日も帰宅できるかわからないとメールで伝えられていた。
そんな状況にも関わらず、何かあったらすぐ連絡しろ。愛しているとこまめに伝えてくれる夏川を、朝霧は本当に好きだと思った。
音羽が会いたいと指定した場所は都内の喫茶店で、時間も真昼間だ。
2人で会って問題が起こったとしても、周りの目がある。
こんなことで忙しい夏川を煩わせたくないという思いが朝霧にはあった。
朝霧は不安を覚えつつも、音羽と今日、会う約束をした。
大丈夫。
ただ喫茶店で会って、少し話すだけじゃないか。
夏川には後から話した内容を伝えればいい。
事前に夏川に会うことを伝えようかと思ったが、心配性の彼だから、自分もその場に行くと、忙しいのに無理をして来てくれそうな予感がしてやめた。
少し会って話すだけだ。何も問題なんか起きるはずがない。
そう考えながらも、朝霧は不安から何度もため息を零すのだった。
待ち合わせの10分前だったが、昼間の明るい店内で、既に音羽はコーヒーを飲んでいた。
その姿が視界に入った瞬間、朝霧は踵を返しそうになった。
やっぱりリョウに付いて来てもらうべきだった。
そう考えたが、今更遅いと自分を納得させた。
朝霧はふうと息を吐くと、震える足で、音羽の目の前に立った。
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