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第200話
朝霧は音羽に精神的に追いつめられ、ネガティブな想像しかできないようになっていた。
夏川と出会ったことで、少しは前向きな考えをもてるようになってきた朝霧だったが、もともとは鬱々とした性格だ。
まだ夏川が優しく問えば答える余裕もあったかもしれないが、今の朝霧は狐に追いつめられた子ウサギのように、震えることしかできなかった。
「あんなに警戒しろって言ったのに、1人で音羽に会いに行って、そんなもの履いて帰ってくるなんて信じらんねえ。俺、帝が何考えてるか全然分からない」
夏川が苛立ちを隠しもせず、癖のある己の前髪をかきあげる。
声を荒げる夏川を前にして、朝霧は己の唇を噛みしめ、青ざめた顔で俯くことしかできなかった。
何とか気持ちを落ち着けようと、夏川が大きく息を吐く。
「ねえ、帝。本当は音羽に脅迫されたんだろ? 実家の病院のこと? それとも帝との過去の関係のこと? ねえ、何でもいいから話してくれないか? 黙っていられたら、俺は帝に何にもしてあげられない。それとも俺はそんな相談もできないほど頼りない男だって、帝の目には映っているの? 」
朝霧は首を振って、顔を上げた。
真摯な表情をした夏川と見つめ合う。
言ってしまえ、全て話すんだ。
朝霧のそんな心の声に被せるように、音羽の声が聞こえる。
『僕は帝くんを手に入れるためなら、どんなことだってするつもりだ』
もし今回のことを夏川が上手く対処したとしても、音羽は諦めないだろう。
そうして第二、第三の罠を仕掛け、夏川はそれに対処しようとするだろう。
そしていつしか 夏川は、朝霧といることでどんどん疲弊していってしまう。
ただ、好きなだけで、傍に居たいだけなのに、それがどうしてこんなに難しいのだろう。
朝霧の頬を堪えきれない涙がつたう。
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