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第201話
「ごめん」
朝霧はそれだけ言って、夏川から視線を逸らせた。
「謝って欲しいわけじゃない。いい加減、本当のことを話してくれないか? お願いだから」
夏川が朝霧の両肩を掴み、揺さぶる。
それでも朝霧の口からは何の言葉もこぼれ落ちなかった。
「どうしても俺には話せない? 」
「ごめん」
夏川は一瞬、痛みを堪えるような表情を浮かべた。
それから夏川は大きく息を吐くと、「分かった」と呟いた。
「帰るよ」
立ち上がった夏川を朝霧が見上げる。
「それから俺達、当分連絡をとるのは止めよう」
夏川の横顔は厳しい表情を浮かべていた。
「それってどういう意味? 」
朝霧が唇を震わせながら問う。
「俺から帝に連絡もしないし、こうやって会いにきたりもしない。帝も俺に同じようにして欲しい」
「それって……別れるってこと? 」
夏川は曖昧な笑みを浮かべただけで、何も答えなかった。
「嫌だよ、俺は」
朝霧は夏川に必死に手を伸ばした。
夏川は伸ばされた手を取らずに首を振る。
「もう決めたんだ。それに帝がそんなものを着けている間は、会ったところで抱きしめることさえできないだろ? 」
「それは……本当にごめん」
「ねえ、どうしても話してくれる気にならない? 」
無言の朝霧に夏川はため息をつくと、背中を向けた。
「じゃあ、元気で」
それは完璧な別れの言葉のように、朝霧の耳には響いた。
「やっ、嫌だっ。リョウ」
朝霧の鼻先で玄関の扉が締められる。
「リョウ」
朝霧は扉に両手をついて、ずるずると座り込んだ。
俯いた先に見える貞操帯を着けた自分の股間が情けなくて、朝霧はぎゅっと目を閉じた。
スマホから音がして、夏川からかと思い、朝霧は飛びつく。
メールの差出人は音羽だった。
「また明日会おう。今後のことを話したい」
嫌だ。お前なんか二度と会いたくない。
それが朝霧の本心だった。
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