223 / 241

第201話

「ごめん」  朝霧はそれだけ言って、夏川から視線を逸らせた。 「謝って欲しいわけじゃない。いい加減、本当のことを話してくれないか? お願いだから」  夏川が朝霧の両肩を掴み、揺さぶる。  それでも朝霧の口からは何の言葉もこぼれ落ちなかった。 「どうしても俺には話せない? 」 「ごめん」  夏川は一瞬、痛みを堪えるような表情を浮かべた。  それから夏川は大きく息を吐くと、「分かった」と呟いた。 「帰るよ」  立ち上がった夏川を朝霧が見上げる。 「それから俺達、当分連絡をとるのは止めよう」  夏川の横顔は厳しい表情を浮かべていた。 「それってどういう意味? 」  朝霧が唇を震わせながら問う。 「俺から帝に連絡もしないし、こうやって会いにきたりもしない。帝も俺に同じようにして欲しい」 「それって……別れるってこと? 」  夏川は曖昧な笑みを浮かべただけで、何も答えなかった。 「嫌だよ、俺は」  朝霧は夏川に必死に手を伸ばした。  夏川は伸ばされた手を取らずに首を振る。 「もう決めたんだ。それに帝がそんなものを着けている間は、会ったところで抱きしめることさえできないだろ? 」 「それは……本当にごめん」 「ねえ、どうしても話してくれる気にならない? 」  無言の朝霧に夏川はため息をつくと、背中を向けた。 「じゃあ、元気で」  それは完璧な別れの言葉のように、朝霧の耳には響いた。 「やっ、嫌だっ。リョウ」  朝霧の鼻先で玄関の扉が締められる。 「リョウ」  朝霧は扉に両手をついて、ずるずると座り込んだ。  俯いた先に見える貞操帯を着けた自分の股間が情けなくて、朝霧はぎゅっと目を閉じた。  スマホから音がして、夏川からかと思い、朝霧は飛びつく。  メールの差出人は音羽だった。 「また明日会おう。今後のことを話したい」  嫌だ。お前なんか二度と会いたくない。  それが朝霧の本心だった。

ともだちにシェアしよう!