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第6話 酔いどれな夏の夜(7)
◇
翌朝。ズキズキという頭の痛みで、諒太は目を覚ました。
(いてて……二日酔いとか、いつぶりだ? さすがに昨日は飲みすぎたな)
眉間を指で押さえつつ、重い瞼を開ける。
――と、目の前にあったのは橘の端正な寝顔だった。
「~~っ!?」
一瞬にして頭が冴えて、声にならない声を上げる。途端、橘が身じろぎをした。
「ん……先生?」
橘はぼんやりとした様子でゆっくりと起き上がる。思い切り伸びをしてから、改めてこちらに向き直った。
「おはようございます。早いっすね」
「おはようって……あっ」
ようやく昨晩の出来事が脳裏に蘇ってきて、諒太は硬直する。
自宅まで送ってもらい介抱されたこと。セックスこそしなかったものの、互いに自慰をしあったこと――思い出すだけで顔から火が出そうだ。
「帰ろうとも思ったんすけど……その、ヤるだけヤッて、何も言わずに帰るの嫌だったんで。ああ、親にはちゃんと連絡したんで大丈夫っすよ」
「そ、そっか。それは嬉しいんだけど……さ」
「? 先生の体だって、責任もって綺麗にしましたよ」
「あーうん、ありがと……いや、そうじゃなくてっ」
二人の間に微妙な空気が流れる。
しばしの無言のあと、橘がぽつりと言った。
「服とシーツは、自分で洗ってもらえると助かり――」
「うわあああッ!」
諒太は思わず大声を上げた。が、橘は平然として続ける。
「あ、いや。おかげさまで、男でも潮吹くんだなあという知見を」
「得なくていいから! 忘れなさい!」
先生口調で言いながらも、あまりの羞恥でどうにかなりそうだ。
昨夜は酒の勢いで、普段の自分なら考えられないような言動を多々してしまった。なんという醜態。穴があったら入りたい気分である。
「昨日あったことは……ほんと、忘れてほしい。いつもはあんなじゃないから」
力なく口にすると、橘はふっと表情を和らげた。
「わかりました。でも、先生が最初のお客さんになってくれるのは――約束、ですからね?」
そう言って、差し出してきたのは小指だ。何を意味しているのかはすぐにわかったけれど、さすがにこの歳になって恥ずかしすぎる。
「ゆ、指きりって」
「約束」
しかし、真っ直ぐに見つめてくる眼差しには到底勝てっこない。
橘と一緒にいると、いつも甘酸っぱい気持ちでいっぱいになる。まるで、遅すぎる青春を味わわされているようだ。
「――……」
おずおずと諒太が小指を差し出したら、橘はそれを優しく絡めてきた。
そうして、軽く指を揺らしながら見つめ合う。互いにどこか照れくさそうな笑みを浮かべつつも、いつか来るだろう未来に想いを馳せるのだった。
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