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第8話 誕生日とはじめての…(9)
「エプロンだ――いいんですか? こんな素敵なもの頂いちゃって」
「いいに決まってるだろ。その……時計とか財布なんかもいいかと思ったんだけど、まだ好みわかってないし。君だったら、こういったのもいいかなって……選んでみたんだ、けど」
恥ずかしさが勝って、最後は尻すぼみになってしまう。それでも気持ちは伝わったらしく、橘は「ありがとうございます」と嬉しそうに返してくれた。
「俺、こんなにもちゃんとしたエプロンって初めてかも。どうでしょう、似合います?」
言って、その場でエプロンを宛がう橘。
思ったとおり、ゆったりとしたシルエットが体の大きな彼によく似合っていた。エプロン姿は料理教室でも見ていたけれど、自分が選んだものだけに新鮮味があってドキドキする。
「う、うん。似合ってるよ」
素直に感想を伝えれば、横にいた美緒も「かっこいい!」と声を上げた。
「りょうたくん、すごくなやんでたからね? みおもいっしょにえらんで……」
「わあああーっ!」
諒太は慌てて、美緒の言葉を打ち消そうとした。が、もう何をしても遅い。
「美緒ちゃん、それ本当?」橘が美緒に訊き返した。
「うん! おみせのなか、ずう~っとウロウロしてたから、みおが『いっしょにえらんであげよっか?』って」
なんという追い打ちだろう。悩んでいたのは事実だけれど、それを本人の前で暴露されては堪らないものがある。案の定、橘がこちらを見てニヤついているではないか。
「これで料理したら、すごく気分が上がりそう」
「あーそうですかっ」
橘に顔を向けられず、諒太は俯いてしまう。
そんな不器用っぷりを見かねたのか、美緒が不意に服を引っ張ってきた。何かあるのかと思って身を屈めれば、小声で耳打ちされる。
「え、俺も?」
「やるのっ」
有無を言わせない口ぶりに負け、諒太は顔を上げる。
照れくささを感じながらも、美緒が出した合図のあと――「お誕生日おめでとう」と、二人で声を揃えて祝福の言葉を贈った。
橘はくしゃりと目を細めて笑う。まるで幼い少年のような眩しさで。
「俺……今日の誕生日が、今までで一番嬉しい」
そんな彼の言葉に、諒太も美緒も笑顔で返した。今日という特別な日はとても幸せに満ち溢れていて、諒太にとっても忘れられない一日となったのだった。
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