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第8話 誕生日とはじめての…(8)

 橘とは駅前で一度別れ、夕方過ぎに自宅へ来てもらうことになった。  これから始まるのは、彼の誕生日パーティーだ。 「だいちくん、いらっしゃい! あのねっ、《わっか》とか《おはな》は、みおがつくったんだよ?」  部屋に橘を迎え入れるなり、満面の笑みで美緒が言った。折り紙やお花紙――壁には彼女が作った飾りが貼りつけられている。 「わっ、すごい……飾りつけしてくれたの?」 「うん! よろこんでもらえたっ?」 「もちろん。ありがとう、どれも美緒ちゃんの心がこもっててすごく嬉しいよ」  橘が頭を撫でると、美緒はふにゃりと表情を崩して抱きつく。橘は本当に喜んでいるようで、どこか感慨深げに部屋の写真をスマートフォンに収めていた。 「こういったのすごく久々というか……こう、胸にクるものが」  その言葉を聞いて諒太も顔を綻ばせる。美緒の一生懸命な姿を見ていたぶん、嬉しいものがあった。 「よかったなあ、美緒。今日のために頑張って準備したもんな?」 「だって、おたんじょうびはトクベツだもんっ。それでねっ、りょうたくんからプレゼントがあるんだよ!」 「ちょ、美緒……っ」  そんな突然振られても困る――情けないことにまだ心の準備ができていなくて、諒太はあからさまに戸惑ってしまう。  だが当の本人はというと、不思議そうな顔をしており、 「え? もう貰ったんじゃ……」 「なワケあるかっ!」  すかさず諒太はツッこんだ。ラブホテルでの情事がプレゼントだと思わないでほしい。 (あー、まったくこの子は。おかげで思い出しちゃったじゃん)  つい先ほどまで愛し合っていた相手を目の前に、平常心を保てというのも難しい話だ。  言わずもがな、セックスの余韻は体の方にも残っている。あれだけ激しく抱かれたのだから、もう全身が痛くて怠くてかなわない。  そんなこんなで落ち着かない気分ではあるのだが、とりあえず気を取り直そうと咳払いをした。そして、キャビネットから包装された箱を取り出し、押しつけるようにして橘に手渡す。 「じゃあ、これ……」  顔がじわじわと熱くなるのを感じる。年上らしくスマートに渡すつもりが、つい色気のないぶっきらぼうな渡し方になってしまった。 「開けても?」  さして気にした様子もなく、橘が尋ねてくる。どうぞ、と諒太が促すと、彼は丁寧に包みを解いていった。  中から出てきたのは、シックなデザインのエプロンだ。色は黒に近い濃紺で、橘の体格に合わせて大きなサイズのメンズエプロンを選んでみた。吸水性や撥水効果のある代物だから、機能面も申し分ないはずだ。

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