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おまけSS キスの日
「ねーねーだいちくんっ。さくらんぼのくき、むすぶのできる?」
「ああ、口の中で結ぶやつ? 昔やったけどできなかったなあ」
食後のデザートにさくらんぼを食べていた最中のこと。ふと、美緒が橘にそのようなことを尋ねていた。
自身も小さな口をモゴモゴとしているのだが、なかなか上手くいかないらしい。
「みおもできないんだあ……でもっ、りょうたくんはできるんだよ!」
やってほしいとばかりに、キラキラした目で諒太のことを見つめてくる美緒。
一瞬にして諒太は困ってしまった。橘にしたって、興味深そうにこちらを見てくるではないか。
「ちょっと恥ずかしいけど……」
と、舌先でさくらんぼの茎を転がし始める。結び目を作ったところで、「ほら」と舌の上に乗っていた茎を取り出した。
途端に、パチパチと二人分の拍手が聞こえてくる。
「ねっ、ね? すごいでしょー?」
はしゃぐ美緒に、うんうんと頷いて同意する橘。
その後、橘と二人で食器洗いをするのだが――予想通りというべきか、橘が爆弾を投下してくるのだった。
「そういや、『さくらんぼの茎を口で結べる人は、キスが上手い』って言いますよね」
「その話、する?」
思い出したように言う橘に、諒太は思わずツッこんだ。
しかし、相手は悪びれた様子もなく続ける。
「ぶっちゃけエロかったです」
「君って、本当に正直だよね」
「実際、舌使いとか上手いと思うし。いろいろと」
「うわー、スケベー」
諒太もクスクスと笑いながら、橘の肩にもたれかかった。一呼吸置いたのち、再び口を開く。
「けど、そんなこと言ったら大地だって。……キス、上手くなったよね」
「そりゃあ、先生に手取り足取り教わったんで」
「あはは、優秀な生徒だことで」
言いつつ背伸びをすると、橘の唇に軽くキスをする。
それから、互いに間近で言葉を交わした。
「先生、今日泊まってっていい?」
「んー。美緒が『いい』って言ったら、かな?」
「『だめ』って言われたこと、一度もないなあ……」
くすぐったいやり取りに、自然と笑みがこぼれてしまう。
二人はもう一度だけ唇を重ねてから、美緒のもとへ向かったのだった。
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