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本当は? 5
「お前と体を重ねるたびに胸の奥が擽ったくて、幸せで。こんなん感じるの、静流だけだから……」
俺の言葉に静流は戸惑いながら、俯いた。
「……それって俺たち、両思いってことだよね」
「あー……そ、だな。うん、そうかも」
「かもってなんだよー」
眉を下げながらも笑ってくれる静流の笑顔が夕日に照らされて愛らしく見える。
「うん、そうだな。そうだよな。……俺も、静流が好き。お前さえ良かったら、ちゃんと俺と付き合ってほしい」
「あはは、それ、俺の台詞。むしろこれからは恋人として綾都の隣にいさせて」
はにかんだ静流の目尻に夕日に照らされた雫がキラリと光った。
「……でも、なんか、すんげー申し訳ない」
「え?」
「静流をこんな意識し始めたの、たぶん、お前とセフレになってからだと思うんだよ……なんかそれが、俺、最低すぎるなぁって思って」
マジでいま思い返しても、最低最悪すぎる。
一体どっからこんな気持ちになったのかは分からないが、キッカケはこの関係しかない。
「体の相性が良かったってことだね」
「お前なぁ……」
「キッカケなんて、別に深い理由じゃなくていいって俺は思ってるから。ちゃんと好きだって気持ちがあるならそれは形を成した恋だよね」
そう言って目を細めて笑うと、そっと俺の手を握りしめた。
それだけでまたドクンと心臓が勝手に反応する。
絡められた指にきゅっと力がこもって、そこから静流の体温が伝わってきた。
「そろそろ帰ろっか。見られないところまでは手、繋いでて」
「……おう」
今までとは違う指を絡めた恋人繋ぎは、緊張した。
だけど、温かくて、幸せで。
これからもこうして君の温度を感じながら、これまでとは違う、二人の関係を紡いでいきたいな。
屋上を染めるオレンジの光が、ゆっくりゆっくり夜の中にのまれていく。
風がふわりと吹き抜けて、柔らかな君の髪を揺らした。
こんなに広い空の下なのに。
あの夜と同じ、だけれど少しだけ違う、優しい君の香りがした。
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