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第8話
漬物になった気分で奏は目を開けた。体の隅々までが重くて、動くのがおっくうだ。脚の間にはまだなにか挟まっている感覚がある。
(なにかっつっても、ナニなんだけどよ)
自分で自分にツッコミを入れて、気だるさを抜こうと息を吐きつつ、ピッタリと寄り添って寝ている成留を見る。
「スッキリした顔しやがって」
心地よく眠っている成留の鼻をつまむと、フガッと鼻を鳴らして目を覚ました。奏の顔を見た成留は、ヘニャリと顔をとろかせる。
「おはようございます、先輩」
眠気をふんだんに含んだ声で言いながら、成留は奏に擦りついた。
「はぁ、しあわせ」
首筋にじゃれてくる成留の髪をグシャグシャと指でかき混ぜ、奏はやれやれと息を吐いた。
「ったく。好き放題しやがって」
「先輩」
首を伸ばしてキスをしようとした成留は、奏の手のひらに顔面を押さえられた。
「ああ、もう。腹減った」
寝返りを打った奏の背中に成留が張りつく。
「でもベッドから出ないってことは、俺とイチャイチャしていたいってことですよね」
上機嫌で奏のうなじに吸いついた成留は、横っ腹に肘鉄を食らわされた。
「ぐふっ……。なにするんですかっ」
「うるせぇし、ウゼぇ」
「照れてるんですか? それとも、ヤりすぎて動けない……、とか」
おそるおそる問うた成留は、殴られることを想定して奏の腕ごと体をしっかり抱きしめる。動きを封じられた奏は、いまいましげに舌打ちをした。
「先輩のその手クセ、かわいいですけど痛いですよ。暴力老人になられたら介護のときに困るんで、照れ隠しは別の方法で…………、って。ああ、そっか。素直にデレてもらえるように、がんばればいいのか」
「……介護?」
奏がけげんに振り向くと、成留はすかさずキスをして極上の笑顔を見せた。
「俺のほうが若いから、順当にいけば俺が介護をする側になりますよね」
言われた言葉を吟味して、奏はおそるおそる体ごと成留に向いた。
「おまえ、ええと……、その…………、なんつうか」
なんと聞けばいいのかわからず言葉を探して目を泳がせる奏に、質問の内容を察した成留がキスをしながら答える。
「死ぬまで別れませんから。だから先輩、安心して素直にデレてくれていいですよ」
甘ったるい声で言われて、奏は真っ赤になった。
「っ、な……、ぁ、あぅ」
照れと羞恥にわななく奏の顔じゅうに、成留は唇を押しつけまくる。
「んふふ。異論なんて、あるはずないですよねぇ。なんせ俺、先輩のトロ顔を見ても引くどころか、すんごい萌えたんですから。先輩の心配は杞憂に終わったってことで! これからは安心して、俺にベタ惚れされているって自信を持ってくださいよ」
「なっ、なんだよそれ! 俺ァ、べつに……」
「べつに?」
完敗だと理解しながら、なかなか素直になれない奏はベッドから出ようとした。
「どこに行くんです、先輩。もっとイチャイチャしていましょうよ」
「うるせぇ」
「おなかすいたんなら、俺がなんか作ってきますよ。腰、つらいんでしょ?」
「自分で行く」
とにかく離れて気持ちを落ち着かせたい奏は、ベッドから出てヨロヨロとドアへ向かった。
「先輩」
すぐさま成留がベッドから飛び出して奏を支える。
「ひとりでいい」
「そんな強情を張らなくても……。あっ、もしかしてトイレですか? やだなぁ、それこそ手伝わせてくださいよ。恥ずかしがらなくても大丈夫ですって。むしろ見たいっていうか、そういうのもアリですよねぇ」
「変態か、おまえは」
「変態ですよ、先輩に関することなら。それっくらい、惚れているんです」
「ぐっ」
真剣な顔の成留に、奏は壁際に追い詰められた。
「ねえ、先輩」
しっとりとした真摯な声で成留が言う。
「俺、先輩が好きです。先輩が心配していたこと、俺、クリアしましたよね? だったら先輩、もうなにも気にせずに俺と恋人としてふるまえるでしょう。意地を張らなくてもいいんですよ。――それとも、先輩。俺と本気で付き合いたくないから、ああいうふうに言っていたんですか?」
不安に揺れる成留の瞳に、奏の心がグラグラ揺れる。見ていられなくて、奏は視線を落とした。
「俺は……」
奏の視線をすくい上げ、成留はさみしげな微笑を浮かべた。
「好きです、先輩。……ううん、違うな。…………奏、愛してる。毎日キスをさせてください」
乞うてくる成留に、奏の心がキュンと熱く絞られる。これじゃ、まるでプロポーズみてぇじゃねぇか。
成留はさきほど介護がどうのと言っていたから、そのつもりなのかもしれない。これは腹をくくって男らしく、正直に気持ちを打ち明けねぇとなと、奏は顔を引き締めた。
「成留」
唇を湿らせて、奏は成留を見つめた。
「俺も、おまえに惚れてる。一生、俺のうまい飯を食わしてやるよ」
ぱあっと全身を喜色に輝かせた成留は、奏を抱きしめた。
「それじゃあ、ご飯でもトイレでもいいから、さっさと済ませてベッドに戻りましょう! もう俺、うれしすぎてガッチガチになっちゃいましたよ。今日は一日中、奏のこと食べていたいです。ああでも、ベッドじゃなくても別にいいかな。そっちのほうがむしろ興奮するかも……。昨夜みたいにトロットロの顔で甘えられたいなぁ。――ねえ、奏はどんなプレイが好きですか? 俺のをしゃぶってくれたこともあるし、昨夜も途中からすっごく積極的だったから、上に乗ってもらうのもいいかな」
「っ、な、おま……、なに…………」
「真っ赤になって、かわいいなぁ。今日は服なんて邪魔なものはナシで過ごしましょうね。たのしい一日になりそうだなぁ。……たっぷり、俺をお腹におさめてもらいますよ? いいですよね。昨夜はあんなに欲しがってくれたんだから」
想いが通じた安堵にうかれて調子に乗った成留は、真っ赤になって硬直している奏の耳に唇を寄せた。
「奏、すごくおいしいって俺のこと咥えこんで、離してくれなかったし」
「っ!!」
羞恥を噴火させた奏の右ストレートが成留の頬に吸い込まれた。
「うぶっ……」
吹っ飛び倒れた成留の股間が、元気にそびえ立っている。
「ひとりで寝てろ!」
ニヤつく口許を片手で押さえながら、奏は不機嫌を装い部屋を出た。
「ほんと、かわいいよなぁ」
天井に向けてつぶやいた成留は頬を押さえてニヤニヤしつつ、この後どんなプレイで奏を調理し味わおうかと妄想を広げていった。
-FIN-
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