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序章

 死ぬほど辛くて痛くて俺は地べたに横たわっていた。ああ、死ぬのだろうか。誇り高い白狐の俺が? 情けないにも程がある。ぽたぽたと雨が俺の心を代弁するかのように、毛を濡らす。  死にたくない。俺はまだ何も成していないというのに。燃え滓程度の命が雨に流れて深い眠気に襲われて、俺は意識を手離した……筈だった。 「おい、君! どうした!?」  煩い。子供の高い声が聞こえて目を開くと、そこには深い海の色をした瞳が此方を見下ろしていた。 「今助けるから、死なないでくれ……!」  どうしてこんな子供の言うことを聞かねばならない。しかし反論しようにも舌すら動かず、子供の小さな腕に身を預ける他に俺が出来ることなど何もない。子供は俺を抱えて走り出す。  どうして俺の為にお前は必死になるのだ。  その問いを投げ掛けることなく、俺は意識を深い闇に落とした。

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