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第34話 帰国
その晩、帰国の用意をして、買ったばかりのダブルベッドで、思い出を噛みしめるように抱き合った。
少し恥ずかしかったけど、最後はこの部屋のシンボルのような壁の大きな鏡の前でも愛し合った。
「翔……見せて……俺の中に入るとこ」
「よく見てろ」
真っ赤な顔をして、鏡の前でよつんばいになった広瀬に、ゆっくりと腰を沈めていく。
「恥ずかしいよ……」
「お前が見たいって言ったんだろうが」
「だ、って……忘れ……たくな……いっ、ああっ」
額に汗を光らせて、腰をぐりぐりと押し付けながら、切ない表情をしている鏡の中の沖田と目が合う。
「イきたいのか?」
フ、と微笑みを浮かべて、大きく引き抜いたモノを、ポイントめがけてズブリと突き刺す。
「あ、ダメ、イっちゃ……あ、あ……」
後ろから抱きしめながら、何度も激しく突き上げてくる沖田の姿を、目に焼き付ける。
気絶しそうなぐらい最高のセックス。
本当にまたこの愛の巣に戻ってこれるのか、寂しくて泣きたくなるような気持ちだったけれど、それでも、日本できちんと事務所と話し合う必要があると広瀬は思っていた。
チャンスを残してくれた、佐々木や事務所社長のためにも。
「もし、日本に残ることになったとしても、年に1度はレコーディングでこっちに来るように調整しよう」
「そうだね。こっちで音楽作るのはいいよね」
夢は、きっとかなう。
今まで、望んだことはすべて沖田がかなえてくれた。
だから、いつでもこの場所へ帰ってこれるはずだ。
これからもきっと。
成田空港に到着すると、ロビーには想像以上の人だかりができていた。
「おかえりなさい! 翔!」
「おかえりなさい! 隼人!」
最前列を固めているのは、沖田と広瀬のファンたちだ。
カメラマンが近づけないように、守ってくれているらしい。
捨てたはずのものが、急に戻ってきて、広瀬はまだ現実を受け止められずにいる。
自分が遠い昔に芸能人だったことを、急に思い出したような感覚だ。
「ファンサービスしとくか?」
沖田がニヤリと笑みを浮かべて、広瀬を抱き寄せ、熱烈なキスをする。
人間、開き直ると図々しくなれるものだ。
ファンの女子たちから、キャーっと黄色い悲鳴があがる。
出迎えの最前列の中央には、佐々木女史が仁王立ちで立っていた。
「こら! そんなところでイチャイチャしない! 家に帰ってからにしなさいっ!」
「あっ佐々木さん。ただいま」
「沖田さん、データ、もらいます」
佐々木が挨拶もせずに、沖田に向かって、すぐに渡せというように手を出す。
やれやれ、といった様子で、沖田は封筒に入れたアルバムのデータを佐々木に手渡した。
「広瀬くん。明日から一ヶ月間、休みないわよ。セカンドアルバムのジャケ撮りは坂下さんが手ぐすね引いて待ってるから。それと、メンズ・アンノウンから、ご指名来てるわよ。広瀬くんが戻ったら、一番に取材させろって」
「そ、そうですか。頑張ります」
「それから。今後、沖田さん以外の人とは恋愛禁止だからね。沖田さんも、いいですね!」
もちろん、恋愛禁止でOKだ。
沖田にもしっかり釘を刺してほしいぐらいだと、広瀬は思う。
佐々木の話では、ふたりが国外へ逃亡したことで、世間ではちょっとした論争が持ち上がったそうだ。
純粋に恋愛をしていたふたりを、ゲイだからという理由で、面白おかしく追い詰めて、日本に帰ってこれなくしてしまったことに対して、ファンがかなり怒ったらしい。
不倫をした訳でもないのに、やり過ぎだと世間は思ったようだ。
広瀬を連れて逃げた沖田は、ファンの間ではかえって株が上がったらしい。
今では沖田のファンと広瀬のファンが手を組んで、ふたりの『純愛』を守る運動を始めているそうだ。
『翔、愛してる』と広瀬が沖田に送った携帯メッセージの画像は、スキャンダル報道以降、ファンの間では純愛のお守りとして流行しているんだとか。
何が役に立つのか、世の中わからない。
「いっそ、セカンドアルバムのタイトル、純愛にするか」
沖田は冗談のように言ったが、佐々木はそれを聞いて、封筒の上に大きく純愛と書いた。
【シンデレラボーイ2 純愛 ~End~】
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23/05/03 後記
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
ほぼ12年ぶりに続編を書きました。
もし雰囲気が変わってたらすみません(汗)
1部をアップしているときに、この2人が芸能界を騒がせるところが浮かんでしまって、どうしても書きたくなってしまいました。
リアクションなどで応援してくださっている皆様、いつも本当にありがとうございます!
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