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第43話 デートの極意、とか

「あ、あのっ、デートってどこがいいんでしょうか!」  聡衣さんはきっとすごくモテる。  もちろん恋愛経験だってきっとたくさんあると思う。だからデートだってたくさんしたことあって。  それならデートで行った場所だって色々あるだろうって。 「俺、初めてなんです! デ、デートっ、なので、どこがいいのかわからなくてっ」  聡衣さんはポカンってしてた。  俺はぎゅって手を握って、ボディバッグの肩紐もぎゅっと握って、こんな質問を急に、友だちを作るのすら下手な自分が突然、タイミングも考えずにしちゃうのが、恥ずかしくて仕方なくて。でも、それもぎゅっと堪えて、頬がすごく熱いのを感じながら。 「色々、雑誌とかで勉強したんですけどっ、あの、聡衣さんなら、年上の、その……すみませんっ、急に、初対面野方にこんなプライベートな質問、しちゃいけないとっ」 「ううん。いいよ? デート、だっけ?」  優しい人、なんだ。聡衣さんって。 「は、はいっ」 「そっかぁ。初デート」 「は、はいっ」 「そのTシャツかわいいね」 「あ、ありがとうございます!」  ぺこりと頭を下げた。  今日までにデートファッションもたくさん勉強したけど、そもそもセンスないし。その、自分で選んじゃったら、聡衣さんや圭佑さんみたいに素敵にはなれないってわかってるし。  だから、俺にとってすごく大事で、記念の服にした。 「これ、義信さんにいただいたんです」 「へぇ、そうなんだ」 「はいっ、最初に、ここでアルバイトさせていただく時に、似合ってるって」 「うん。すっごい似合ってる」  わ、ぁ。  こんな綺麗な人に褒めてもらっちゃった。 「じゃあ、カジュアルだし、なんか、アクティブな方がいいんじゃないかなぁ」 「……あ」 「遊園地とか? 大学生、だもんね。そういう楽しいとこの方が好きじゃない? それに国見さんとじゃ一日一緒にいるのって難しいもんね。大学は土日休みだけど、お店は土日やってるから」  遊園地、は。 「うちもそうなんだよね。彼氏、基本土日休みだからさ。一日一緒にいられるのってすっごい稀でさ」  わ、「うち」っていうの、なんか、大人。 「でも、まぁ、うちは一緒に暮らしてるから」  あ、また「うち」って。 「けど、一緒に暮らしてないと難しいよね。一日デートっていうのさ。だから、たくさん楽しまないと」 「あ、あのっ」 「あ、ジェットコースターとかダメ? けど乗りながらシューティングしたりとかもあるから」 「あ、いえ! あの!」 「?」 「そ、それだと、少し子どもっぽい、かなって」  相手、義信さんはすごくすごく大人で。だから、遊園地なんてって、思うかもしれない。今まで付き合ってきた恋人の誰よりも子どもっぽいなって思うかもしれない。  せっかく仕事休んでくれるのに、そんなところじゃ疲れちゃうかもしれない。  土日で人も多いだろうし。  わざわざ混んでるところに飛び込まなくたってって。 「えー、大丈夫だよ。そんなの思わないって」 「で、でもっ、夜景と、あと、ドライブって」 「あ、いいね。ドライブしながらテーマパーク行って、ラストはレストランで食事。もちろん、夜景も。すっごいいい! いいなぁ。俺も今度、昭輝誘って行こうかな。でもなぁ。昭輝、ナンパされそうだしなぁ」  昭輝さん……っていうんだ。やっぱり男の人なんだ。相手の人。 「けど、それ、王道すぎて、義信さんみたいにかっこいい大人の人はもう何度も行ったことあるだろうし」 「……」 「面白くないんじゃないかって」  他の人ともしたことあるでしょ? そんな一番目に出てきそうなデートプラン。退屈ってなるかもしれない。 「んー、けど、汰由くんとは初めてでしょ?」 「!」 「じゃあ、楽しいじゃん。それに」  聡衣さんは頬を赤くして、首を傾げると、唇の端をきゅっと上げて笑ってくれた。 「好きな人と楽しく過ごすのがデートで。好きな人が楽しく過ごしてくれるのが楽しいっていうのがデートでしょ」 「……」 「だから、汰由クンの一番行ってみたいところが、国見さんの行ってみたいとこなんじゃない?」 「……」  好きな人と、義信さんと楽しく過ごす。 「って、わかりにくいよね! ごめんっ。説明とか下手なんだよねぇ。昭輝はそういうの上手に話せるんだけどさぁ。んーとね、つまりは、汰由クンが国見さんのことばーっかり考えて、国見さんのためにって思ってるのと同じくらい」  好きな人が。義信さんが。 「国見さんも汰由クンのことばーっかり考えてると思うよ?」  俺が楽しく過ごしたら、それが義信さんにとって楽しい。 「って、まだ、意味わかんないよねっ」 「いえ」  それがデート。 「すごく良くわかりました」 「わ、ホント? ありがとー」 「こちらこそ、ありがとうございます」  そこにバックヤードでメールをし終えた義信さんが「ごめんごめん」って出てきた。  待たせたねって笑ってくれて、すごく、楽しそうに笑ってくれて。俺はその笑顔を見ただけで、すごく、嬉しくて。  だから、デート、もう始まってるんだって思った。だって、今日の義信さんはずっと笑ってる。ずっと、楽しそう。 「それじゃあ、聡衣クン」 「はい! お任せください! 久しぶりのアルコイリス本店勤務頑張ります」 「よろしくね」 「よ、よろしくお願いします!」  任せておいてと笑って見送ってくれる聡衣さんに深く深くお辞儀をした。 「さて、じゃあ、行こうか。ドライブ。どこがいいかなぁ。汰由」 「あ、あのっ」  今日は、デート。 「あのっ」  楽しみにしていたデート。  すごくすごく楽しみにしてたんだ。俺も。 「い、行きたいところ、あるんですっ」  きっと義信さんも。 「一緒にっ、行っていただけませんか?」  好きな人が楽しく過ごしてくれるのが楽しいっていうのがデート。  義信さんが楽しくしてくれたら、俺はすごくすごく楽しくて嬉しい。 「あのっ」  ねぇ、俺が楽しくしてたら、義信さんも楽しく、あの……なって、くれますか?

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