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第42話 綺麗な人
デートの日、に、なっちゃった。
結局、どこが「大人デート」にちょうどいいのかわからなかった。
美術館めぐり、とか良さそうだけど……あんまり美術とかわからないんだよね。「勉強」系の教科ならオール百点取れるけど、テストがあってないような、美術みたいな「センス」のいるものはちっともダメで。だから、そんなに興味はない、けど、大人な義信さんはそういう方がきっと心地良いだろうし……。
それに、とにかくどこかデートで行きたい場所をいくつか、せめて一つくらいは提案した方がいいと思うから。
書いてあったんだ。その雑誌に。
デートプランを「お任せ」しちゃうのって、あんまり良くないって。
男性、つまりは「彼氏」を困らせちゃうらしい。
女性、つまり「彼女」がフラれる理由の一つにもなってるって。
それで、性別的には俺も男だけど、その、えっ…………ち、の時はしてもらう側だから、つまりは「彼女」なのかなとも思うし。
それに、それに、書いてあった。社会人になると忙しいからデートプラン考えるのもたまに大変になるって。忙しいのに、行きたい場所探して、レストラン探して、って、そんなの毎回は確かにしてられないでしょ?
義信さんは「経営者」でお店、やらないといけないんだし。俺がアルバイトでいるのはたったの数時間だけど、その数時間でも義信さんは忙しそうにしてる。それがほぼ毎日あるんだ。疲れちゃうよ。
だから、デートのプランは俺が――。
「……?」
今日がデートで、お店のところで待ち合わせになってた。少し用事があるんだって言っていたから、じゃあ、お店のところで待ち合わせましょうって、俺が言ったの。
迎えに来てくれるって言ってもらえたけど、お母さんに見つかるのヤだから。
「看板……」
オープン、になってた。お店の看板。
今日、お休みにするって言ってたけど、やっぱりダメになっちゃったのかな。お店、休めないのかな。でも、それが普通だよね。お店休んでデートなんて、ダメだよね。
そっか。
じゃあ。
今日は……。
いや、全然、一緒にいられたらそれで充分だから。
バイト、頑張らなくちゃ。
「おはようございます。開いてますよ?」
「……」
誰、だろ。
すごい。
「? お客様? あ、違ってました?」
綺麗な人だ。
「うわ、ごめんなさい」
誰だろ。義信さんのお店に……あ!
「聡衣クン、彼が今さっき話した汰由だよ」
「あ、やっぱりそうだー。国見さんが話してた感じの通り」
サトイ! サン!
わ、こんな綺麗な人だったんだ。
「初めましてー。前、ここで仕事させてもらって、今は支店? みたいなのと、オンラインでのショップ管理をしている枝島聡衣(えだしまさとい)です」
「汰由、ごめん。急遽なメールが入ってたんだ。それが済んだら出よう。中で待ってて」
その綺麗な人は、こちらの胸がキュってなるくらいに愛らしく微笑んで、クリーム色の柔らかそうな髪を耳にかけて、小さく首を傾げてくれた。
素敵な人、って思った。
こんな綺麗な男の人っているんだって驚いた。
クリーム色が綺麗な髪も、白い肌も、あと笑った顔がキラキラしていて。睫毛も長かった。声も綺麗で、でも、確かに男の人の声で。あと細くて。しなやか。
細いのは俺もだけど、全然違う。俺みたいな痩せっぽっちじゃなくて。綺麗なスリム体型っていうかさ。
こんなに綺麗で恋人がいないわけなくて。
確か、その恋人がいて、その恋人がまたすごくハンサムって。
「そっかぁ。二十歳……わっか」
同じ、人、なのかな。ハンサムってことは男の人な訳だし。あ、いや、女性でもハンサムって呼ばれる人もいると思うけど。でも、こんなに綺麗な人なら相手は女性だけじゃなく男性でも全然。どちらにもモテそうっていうか。
だから、俺とは全然違う人だけど。
でも、俺と同じ、同性愛の、人?
「どうりで肌ツヤツヤ」
「!」
パッと俺の目の前に来て、じっと、頬の辺りを見つめられて、思わず身構えちゃった。聡衣さんは、俺もケアしてるけど若さには勝てないか、なんて小さな声で呟いて、とても上手に、すごく綺麗に品物を棚へと並べてく。
全然、聡衣さんのほうが綺麗だ。
同じ男って思えない。色っぽくて、綺麗で、ツヤツヤしてる。つい見惚れちゃうくらいに。
「こりゃ、国見さんも浮かれる」
義信さんのこと、国見さんって呼ぶんだ。なんか、かっこいい。
お仕事できそうな人。
「あと少しで国見さん来ると思うよ。楽しみだね」
「!」
くるりとこっちへ振り返って、その拍子に長めの髪が躍るように跳ねた。そして、ずっと身構えっぱなしの俺に「デートだね」って笑ってくれる。
一緒にいると、こっちの気持ちも華やいでくるような、そんな明るい人。
「どこ行くの? 今日天気いいから最高だね」
「あ……」
「?」
「えっと、あの、すみません」
「は、はい」
こんなこと訊いたら失礼かな。
でも、彼氏いるって言ってたし。絶対にモテる人だし。俺と義信さんのこと知ってるし。だから――。
「あ、あのっ、デートってどこがいいんでしょうか!」
そう意を決して尋ねると、聡衣さんがほんのりとピンク色をしている唇をポカンってさせて、俺を見つめた。
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