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第41話 大人のデート
来週、デートだって。
どうしよう。
服装とか。
雑誌で色々見てはいるんだけど。義信さんのお店で結構揃えたんだよね。で、結構雑誌に載ってるのはイマイチで。
かといってい、義信さんに見せたことのない、新しいのを着てデートしたいっていう願望もあったりして。
おしゃれだねって言われたいっていうか。
あ、あと、そうだ。
髪。
そうそう。
髪、切ろうかな。
前髪少し長い気がする。
でも、なんとなく、すごく、その自意識過剰っていうか、ホント、なんとなぁくだけど、この真っ直ぐな髪、義信さんに気に入ってもらえてる感じもする。
なんとなくだけど。
自意識過剰っぽくなるけど。
だから切らずにいようかな。
「……」
そう思いながら、でも少し長い気もする前髪を自分の指先で摘んだ。
あんまり、好きじゃなかった。真っ直ぐすぎる髪が。なんか、性格がきつそうっていうか、真面目でしっかりしてそうってイメージがすごくあるみたいで。晶は逆にストレートな髪質に憧れるって言ってたけど、俺からしてみたら、ふわってしてる晶みたいな髪の方が優しそうで。
――汰由の髪は綺麗だ。
俺は、義信さんの髪が好き。
柔らかくて、触ると心地良くて。
「……」
やっぱり、やめとこ。
もう少し、まだ、このままで。
だって、ほら、そうしたら。義信さんが触って――。
「それでは、今日はここまで」
そこでチャイムが鳴った。
「今、言ったところ、レポートでは調べて追記しておくように」
え? 何? レポートで追記するの? 今、先生が何か言ったことを?
これで午前の講義が終わり。もうお腹が空いてランチのことで頭がいっぱいの学生、朝からの講義続きに頭の方がへとへとの学生。そんな俺たちに意地悪をするように、講義が終わる直前、何か、先生が上の空だった学生たちを叱るようにレポートに追加したらしい。
「あ、晶!」
さぁ、ランチタイムだと学食に急いで、バサバサと騒がしくテキストをカバンに詰め込む生徒の中、比較的のんびり屋の晶のところへ急いだ。
学食、たまにだけど、人気が集中して売り切れちゃうメニューセットもあるからか、それとも教室から早く解放されたいのか、とにかくお昼前の講義終わりは慌ただしい。
「ごめん、あのさ、今、レポートのこと」
「あ、汰由、もしかして聞いてなかったの?」
「う、うん。ごめん」
「いーよ。別に。えっとね、これこれ」
「うん」
晶がしまったばかりのノートを出して、説明してくれた。
「あ、ごめん。ちょっと待って、スマホで写真撮ってもいい?」
「うん。いいよ」
「ありがと。えっと、スマホ」
今さっき終えた講義の先生はスマホが大嫌いで。受講中にスマホが少しでも音を立てると、それだけで次回提出レポートでポイントが減らされちゃうから。
「ぁ、わっ」
ランチ、行きたいよねって慌てすぎた。スマホをカバンから出そうとして、その鞄からバサバサと中身が落っこちてしまった。
「ごめ、」
「んーん、いいよ。全然」
落ちたのは雑誌。ちょっとした隙間時間に調べようかなって。コンビニで見つけて思わず買ったんだ。夏休み前だからかな。デート特集みたいなのがあって、デートの行き先別ファッション特集と、それから人気のデートスポットみたいなのも色々書いてあったから、つい、買ってみた。
その雑誌がカバンから零れ落ちて講習室の床に大騒ぎで音を立てながら落っこちた。
「……デートの服?」
「あ……うん」
頬が一瞬で熱くなった。
「ほほぉ、それで頭がいっぱいで講義の内容聞いてなかったわけだ」
「! ち、違っ」
「珍しいなぁって思った。汰由が講義聞いてないなんて」
「だから、違くてっ」
「いーじゃんいーじゃん」
なんか、くすぐったい。
「どこ行くの? いいなぁ」
デートって、言っちゃった。
「遊園地とかよくない? この前、テレビでやってたできたばっかの商業施設もさ。あーでも混んでるかなぁ」
そんなところあるんだ。
全然知らなかった。
義信さん、知ってるかな。
「けっこう友だち行ってた。けど、すっごい混んでるって」
そっか。
じゃあ、ダメ、かな。
同年代に人気のところじゃ、きっと、義信さんは微妙だよね。もっと大人っぽくて、落ち着いていて。
「まだ、決めてないんだ」
「そうなんだ。けど、彼女が行きたいとこあるんじゃん? そういうのに付き合うのも楽しいよね。相手のこと知れるしさ」
「う、ん」
せっかくお店休んでまでデートしてくれるんだもん。義信さんが落ち着けて、気に入ってくれる場所がいい。混んでるところとか、きっと疲れちゃうでしょ? だから。
「楽しみだね」
「うん」
どこがいいかな。
「あ、あった……ここか……」
学食で昼食を食べながら雑誌を見てた。晶はレポートのことで資料室行きたいっていうから別々にして。俺も雑誌読みたかったから。
お母さんがこんなの見たらだらしないっていうだろうな。ご飯食べながら、雑誌読むなんて。もちろん、スマホ見ながら食事なんてのも絶対にダメ。
「へぇ、人気なんだ……面白そう」
晶が言っていた新しい商業施設のこと、雑誌に載ってた。本当に最近できたらしくて、複合的商業施設ってやつ。色々楽しめるみたいだけど、ちょっと、派手っていうか。
「……」
うーん、って考えながら、パラパラとページをめくっていた。
手が止まったのは、まさにって感じの王道デートスポット。楽しそうにレポーターのモデル? さんなのかな、女性と男性の若いカップルが楽しそうに満喫している写真が載っていた。エリアごとの現地限定アイスクリームがカラフルで、楽しそうなトッピングが乗ってて、美味しそうだった。フォトスポットでの写真の撮り方なんてあるんだ。わ、これも楽しそう。できたばっかりのアトラクション攻略法だって。すごい。へぇ。ランチも美味しそう。
でも。
「……」
でも、こういうテーマパークこそ子どもっぽいよね。
若いカップルって感じだもん。
大人は。
「……」
大人はもっと落ち着いてゆったりできるところの方がきっといいよね。そう思って、またパラパラとページをめくった。
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