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ユメトウツツ

 大通り沿いに植えられた桜の木から、花の姿が消えて一週間ほどがたった。  執務室の窓から見下ろすと、小さな緑の葉が風で揺れているのが見える。花の季節が美しいのはもちろんだが、新緑の季節もまた陽に輝いて美しい。その様子をこの窓から眺めるのは、自分の密かな楽しみになっている。  平日の昼下がり。いつもなら会議や面談、書類仕事に忙殺されている時間だが、今日は比較的ゆっくりできている。  おそらく、昨年採用した秘書——若草京一《わかくさきょういち》——が、そうなるように今日のスケジュールを組んだのだろう。  俺の様子をつぶさに観察し、絶妙のタイミングでこういう時間を差し込んでくる。  仕事が詰まっていて時間に余裕がない時は、コーヒーや緑茶を淹れてデスクにそっと置いていく。たまにチョコレートが一粒添えられていることもある。  今飲んでいるコーヒーも、若草が淹れて持ってきたものだ。  執務用の椅子に座ると、ビルの間から少しだけ、青い空が見えた。細く開けた窓から、心地良い、爽やかな春の風が入ってくる。  昼食後ということもあって、瞼がだんだん重くなってきた。  少し眠ろう。そう思った俺は、ゆっくりと目を閉じた。  何かが俺の頬に触れている。柔らかくて、あたたかい何か。  ほんのりと香るフレグランスに覚えがあった。若草が自分の隣に立った時、いつもふわりと香り立つ。今の状況を確認したくて、なんとか瞼を開こうとするが、重くてなかなか言うことを聞いてくれない。  手にも何かが触れている。こちらは少し冷たい。指にそれが絡みついて、それは人の手だとわかった。  頬に触れていたものが移動し、そしてそれは俺の唇に触れた。ついたり離れたりしながら、触れるだけだったそれは次第に深くなっていった。  夢うつつ、ぼんやりとしていた頭が覚醒していく。瞼が軽くなり、少しずつ目の前の人間が見えてくる。いつのまにか窓際のブラインドが降ろされ、照明を消された室内は薄暗くなっていたが、思っていたとおりの相手の顔が見えた。吐息が触れる距離で、互いの視線が絡む。  黙ったまま動かずにいると、若草の唇がゆっくりと降りてきて、先ほどよりも深く俺の唇を塞いだ。それとほぼ同時に、俺の脚の間に若草の膝が割って入り、奥にあるものを軽く押してくる。服の中で形が変わり、しだいに窮屈になっていく。  ベルトを緩めようと手を伸ばすと、やんわりと遮られ、かわりに若草の手がそこを解放した。覆っていたすべての布が除かれ、剥き出しになったそこに若草の指が絡みつき、強弱をつけながら刺激していく。みるみるうちに完全な形になったそこは、先端から溢れた透明な液で自らを濡らした。  若草の後頭部を掴み、自分からもキスを仕掛けると、深く合わさっていた唇は激しさを増し、獣じみた呼吸音が室内に響いた。  こんなこと、今まで男にされたことなんてないし、したいと思ったこともない。俺には男とこういうことをする趣味はない。  だが、そんなことはもう、どうでもよくなっていた。昂りに絡んでいた若草の指が、更に深いところを探り始め、経験したことのない感覚に背筋を貫かれたからだ。  俺は再び目を閉じて、若草の手から与えられる激しくも甘い快楽に身を委ねた。

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