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61.*****
芯は、自ら腰を押しつけ奥を抉らせる。奏斗さんは大きく抽挿し、時々、芯まで響くように強く突き上げる。
死を直感した僕は脱力し、芯の背中へフラッと倒れ込む。それを良しとしない奏斗さん。僕の両手首を掴んで起こすと、容赦なく下へ引き、深く深く奥を抉り抜いた。
「──先生、しっかりして。なぁ、ちゃんと聞いてる?」
「し··ん····んぅ、聞いて··ぅぇ゙····」
僕は、芯に抱き締められていた。聞いていると言ったものの、何の話か分からない。意識が飛んでいたようで、全く聞こえていなかった。
それよりも、吐きすぎてみぞおちが痛い。それなのに、嘔吐くのが止まらない。それでも2人は、僕を犯し続ける。
いつ体位を変えたのか記憶にない。僕は芯へ正常位で挿入していて、奏斗さんが後ろから僕に腰を打ち付けている。突かれる度に込み上げて、本当にもう、頼むから勘弁してほしい。
芯は、小さく息を吸い込むと、僕の肩を押して距離をとった。僕は、重い身体をなんとか持ち上げる。
僕をジーッと見つめ、芯はもう一息吸い込む。そして、静かに、愛おしさを溢れさせながら、不安そうに言葉を放つ。
「ホントにいい? 俺もう我慢できねぇよ」
一体、何の事だろう。よく分からないが、芯なら何だって許せるはずだ。そのくらいの覚悟はできている。
「ん、いい··よ。お願い」
僕が何を頼んだのか、直後の言葉で全てを理解する。
芯は、一度浅い呼吸を置いて、少し躊躇いながら、優しく丁寧に言葉を紡いだ。
「····零 、愛してる」
朦朧とする中で、芯の心地よい声が溶け込んでくる。
(名前····そうか、平気なんだ····。ありがとう、芯)
声を出す余裕はない。けれど、息を詰まらせることはなく、それどころか僕は、全身を震わせながら芯のナカを白く染めた。
便乗して奏斗さんも名前を呼んだが、芯の所為で鼓動が煩くてよく聞こえなかった。不満そうな奏斗さんは、酷く突き上げて僕のナカへ熱い精液を注ぐ。
ふわっと意識が遠退く中、これが恋なのか··と、甘ったるい気持ちに呑み込まれながら、僕はトラウマを克服した。
僕の熱は下がりきらないまま。奏斗さんのマンションへの引っ越しが終わり、一息つく間もなくベッドへ引きずり込まれて数時間。
奏斗さんが僕のお腹を満たして、漸く解放された。僕を玩具にした奏斗さんと芯は、満足そうな顔でぐっすり眠っている。少し腹が立つが、愛らしさにかまけて許してしまう。
また少し熱が上がってきたので、僕はベランダに出て火照った身体を冷ます。強い風が吹き、悪戯に髪を乱してゆく。まるで、僕の身勝手を責めているようだ。
吹き荒れる風に負け、ふと視線を落とす。地面にキラキラと蔓延 る電飾を、前ほど眩しく思わなくなった。芯で慣れてしまったのかもしれない。
芯の卒業まであと僅か。それを待って、芯の親に攫う事を宣言しに行く。たとえ、僕一人でも。果たして、この仕事を続けていられるか。最悪、僕は犯罪者になる。
それは至って構わない。そうなれば、奏斗さんが面倒を見てくれると言ったのだ。もういっそ、甘えられるだけ甘えようと腹を括った。
できる事ならひとつ。責任と愛情を拳に込め、芯を傷つけた親御さんの頬に一発入れたいところだが、それは流石に柄ではない。
「うーっわ··まだ寒いじゃん。何やってんだよ、風邪ひくぜ?」
ヒタヒタと、静かな足音を鳴らしながら出てきた芯は、冷たい夜風にブルッと身を震わせた。ニマニマと嫌味を言うから、罰が下ったのではないだろうか。
「それがさ、もうひいてるんだよね。芯こそ、ぶり返さないように気をつけなきゃ」
「ぶり返したら、俺んナカ熱 ぃの愉しめばいーじゃん。····なぁ先生、しんどい?」
ニカッと笑い、バカな軽口を叩く芯。直後に見せる真面目な顔に、ギャップ萌えしてしまう。バカなのは僕のほうか。
さてはてし ん ど い とは、身体の話だろうか。それとも、気持ちのほうを案じてくれているのか。
まさか、あの事を後悔しているのだろうか。そんなのは許さない。漸く成就した願いなのだ。僕は、芯が僕を愛してくれた事が、芯でトラウマを克服できたことが、何よりも嬉しいのだから。
けれど、意気地のない僕は都合のいい答えで誤魔化す。
「ちょっと··ね。熱下げようと思って」
「んで全裸なの? また熱上がってきた?」
心配そうに額と額をくっつける芯。ベタなトキメキを感じて、この瞬間を楽しんでしまう。
「あはは、大丈夫だよ。なんかね、奏斗さんの気持ちが分かっちゃった。裸で外出るの、気持ちイイね」
ここは32階だからできる事だ。けれどそれ以前に、裸で外へ出るにはまだ寒い。バカな事をしている自覚はちゃんとある。僕はまだ正常だ。
「先生ん家2階だったじゃん。あれは恥じらい落っことして気ぃ狂ってるだけだから」
やはり、先生呼びに戻っている。夢ではなかったと思うのだけれど、不安が過ぎってどうにも触れられずにいる。
思い切って聞いてみようと思った瞬間、ぬっと現れた影に覆われた。
「失礼だなぁ。俺にだって恥じらいくらいあるんだけど?」
そう言って、全裸でベランダに出てきた奏斗さん。かく言う芯も全裸である。
そして、奏斗さんは僕にカーディガンを羽織らせると、またくだたらない口論を始めた。
僕は2人を宥め、どうしてあの時、何に耐え切れなくなって僕の名前を呼んだのかを芯に尋ねてみる。正直に、あの時は意識が混濁していて話を聞いていなかったのだと白状して。
「マジで覚えてねぇの?」
芯は、奏斗さんと顔を見合わせて言葉を躊躇う。僕が問い詰めると、芯は渋々口を開いた。
「先生あん時さ、俺に挿れなおしながら『芯の気持ちが分かんない』とか『名前呼んでもらえないまま死ぬのやだ~』って喚いてたの」
「え····、嘘だ。そんな事言った覚えないよ」
「嘘じゃねぇよ。なぁ?」
「うん。凄い我儘に喚いてたね。熱の所為だとは思ってたけど····あれは可愛かったぁ♡」
「それは同感。けど、俺だけじゃなくて奏斗にも甘えだしたから気持ちがわーってなって、俺のなのにって思ったら、なんか··さ····」
僕が芯のものだと証明したかった。だから、本当に名前を呼ぶぞと、それでも僕を気遣って再三確認をしていたのだとか。
芯は、言い終えると頬を真っ赤に染めた。ひとつ、僕が甘えていたと言うのは語弊がある気がするけれど。2人の認識はやはりどこかおかしい····。
奏斗さんへの単なる対抗心や、瞬間的に膨れ上がった独占欲だったのかもしれない。それでも、それら全てが僕への愛情なのだと思うと、芯に染められてゆくのも悪くない。
本当は、僕が芯をこの手で染めて落とすつもりだったのに、まんまと眩しい日々へ引き上げられてしまった。それも、奏斗さんごと。
目を閉じれば、知り得なかった多幸感に心臓が痛むほど溺れてゆく。それに加えて、夜風に煽 がれる開放感からだろうか。
長い間この身に纏っていた楔 を、脱ぎ捨てたかのように心が軽くなった。
僕は、衝動的に芯の腰を抱き寄せ、首筋に唇を這わせながら言う。
「僕が、芯の家族になりたい」
芯にとって家族とは何か、奏斗さんに家族は必要なのか。家族という枠の中で、僕は愛を紡いでゆけるのか。これから確かめていきたい。
「セン····零、俺も。零となら、家族ってのになれるかもって思えるよ」
「はいはい、俺も一緒に家族ごっこするからね。2人で抜け駆けとか許さないよ?」
そう、僕たちのこれは、ただの“家族ごっこ”だ。いつ終幕を迎えても不思議ではない。
僕たちは、その瞬間までごっこ遊びに興じ、それぞれに歪んだ狂人で在り続ける。互いにそれを心地好く想い、手放せずにいる依存者。
そのはずなのだけれども。
「ごっことか言うなよな。俺は本気なんだから。ま、俺が愛してんのは零だけだけど」
「クソ生意気なガキはちゃんと躾直してやるから安心しな。すぐに俺のことも『愛してます』って言わせてやるよ」
「一生言いません~。奏斗は俺らがイチャついてんの見て妬いてろよ。なー、零♡」
僕と向き合った芯は、腰を押しつけ艶かしい表情 で魅惑する。僕の躾に沿って強請る事を覚えた、破廉恥でイイ子だ。
この純粋 な少年を、悪い大人の我儘に巻き込んだ事への後悔はない。罪悪感などとうに棄てた。だが、この子の未来を奪った責任は感じている。
生涯、僕の、僕たちの餌食になった芯を決して離さない。失 くさない。逃がさない。たとえ、この愛おしい手脚を喰い千切る事になっても。
僕は、心の中でそっと誓った。
また考え込む僕を見て、芯と奏斗さんは同時に僕の手を引く。
そして、広くなった愛の巣 へと戻り、僕たちはそれぞれの歪んだ愛を貪り合う。
fin
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