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60.*****

 セックスを我慢した甲斐あって、翌朝には随分と熱が引いていた。  芯の額に触れると、芯は『ん··』と小さく愛らしい声を漏らして目を覚ます。  寝惚けた芯に唇を奪われ、そのまま犯してやろうかと思ったが、昨夜の苦悶を無駄にしてなるものかと必死に堪えた。  その夜、週末でもないのに夜も更けてから訪ねてきた奏斗さん。どうやら、芯の見舞いに来てくれたらしい。  看病などした事がないと言って、奏斗さんは芯と一緒に粥を食べているだけ。何をしに来たのかと思えば、本当に顔を見に来ただけなようだ。  けれど、臥せっている時の心細さを知っている芯は、珍しく穏やかに食卓を囲んでいる。生意気な口は減らないが、ギャーギャーと騒ぐことはない。 「今日は大人しいのな。つかどういう風の吹き回しだよ」  静かながらも、悪態をつくように言葉を投げつける芯。それに対し、奏斗さんは冷静に大人らしい態度を返す。 「俺さぁ、芯のことも大切にするって言わなかったっけ? 今日はホントにただのお見舞いだよ。あ、ハニー、その花は芯だけじゃなく君にもね」  ソファにふんぞり返って僕を見上げる奏斗さん。そのしたり顔がカッコイイだなんて、口が裂けても言えない。 「あ、ありがとう····」  花とは、奏斗さんが持ってきた、僕が腕いっぱいに抱えるほど大きな花束の事だ。白薔薇を基調に、絢爛(けんらん)さが喧しいほど訴えられている。見舞いとは思えず、ましてや僕には不相応な花束。  花瓶もないのに、どうすればいいのだろう。纏わりつくような香りに包まれ、僕は立ち尽くす。  花束をこそっとキッチンに置き、僕は粥の器を片す。芯は、疑り深く奏斗さんをまじまじと見る。僕だって、信じられないのは同じだ。  けれど、奏斗さんのいじらしいまでの改心を、僕も芯も認めていないわけではない。あまり、意地悪な事は言わないつもりだ。 「芯、来てくれて嬉しいなら素直に言えばいいでしょ」 「べ、別に····嬉しくねぇし」  言葉とは裏腹に、表情が少し綻んでいる。素直になれない芯を、奏斗さんも可愛いと思っているのだろうか。  奏斗さんは、芯を愛でるように髪をそっと掬った。 「お前さ、耳殼に痣あるよねぇ。これ煙草だろ? こんなトコ誰にやられたの?」  奏斗さんは、薄ら笑って耳を引っ張った。直前までの慈悲を乗せたような笑顔は何処へやら、恐怖すら感じさせるような冷淡な表情を見せる。  やはり、この間の話が気になっているのだろう。 「イッテェな。引っ張んじゃねぇよ」  奏斗さんに、芯の家庭については話していない。話したところで興味がないだろうから。そう思っていた。  けれど、意外にも反応を示す奏斗さん。自分の過去と重ねているのだろうか。奏斗さんは、暴力的で情緒の狂った母親に愛想を尽かし、高校進学と同時に家族を捨てている。  自身の異質さを自覚していた奏斗さんは、周囲と折り合いがつかず苦労の絶えない幼少期を過ごしたらしい。  抱き潰した僕に、一度だけそんな話を聞かせたことがある。当時は、気まぐれの独り言だろうと思って触れずにいた。 「ここだけじゃないよね。身体中、()()()()()()にいっぱいあんじゃん。それも結構最近できたヤツ。これってさぁ、虐待? それか、先輩とか? イジメられてんの?」  繊細な問題へドカドカと土足で踏み込む。芯は不愉快そうな表情で、奏斗さんの手を振り払った。 「んっだよ! 奏斗(お前)には関係ねぇだろ。俺ん中にズカズカ入ってくんな。それしていいの、先生だけだから」 「つってもねぇ、こんなの誰が見てもじゃん。ピアスとかアホみたいに着けてイキがった派手な頭して、色々隠してるつもりなんだろうけど··、()()ナメんじゃないよ?」  奏斗さんは、芯の顎を指先で持ち上げ威圧感を放った。けれど、その威圧感は制圧する為のものではなく、芯がまだ庇護対象である事を知らしめるようだった。 「それに、お前はもう俺のなんだよ」  ジトッと見下ろす瞳には、幾分かの怒りが込められているように思えた。所有物が傷つけられるのは、彼の性格上許し難いのだろう。 「芯、僕から話してもいいかな。そろそろ、芯のこともきちんとしていかなくちゃいけないし」  芯の了承を得て、奏斗さんに事情を話す。そして、そのまま僕の予定も伝える。  芯が卒業したら、一度挨拶に行こうと思っている。話を聞いてもらえなくとも、芯が僕の元で愛されている事だけは伝えておきたい。  そして、二度と返さないと宣言しておかなくては。僕が責任をもって、生涯愛し続けるのだから。  芯はそれを聞いて、頬を赤らめていた。一生逃がさないと、死ぬまで僕が飼うのだと、この幼気な少年はまったく、自分の置かれている立場を本当に理解しているのだろうか。  僕の所為で随分と歪んでしまったこの子を、僕は決して離さない。恐れを成して逃げようものなら、最悪手足を奪えばいい。そんな利己的な胸中を漏らすと、奏斗さんは賛同してくれた。  それはきっと、間違った時に訪れる僕の未来でもあるのだろう。  乾いた笑いが交差する中、初めて穏やかな夜を過ごした。どうして奏斗さんが帰らないのか、不思議ではあったが帰れとも言えなかった。  翌日、芯の熱は完全に下がっていた。  見事に風邪を貰った僕は今、奏斗さんと芯に犯されている。引越しを明日に控え、是が非でも熱を下げなければと、早めに就寝したはずだったのに。  芯の時と同様、お見舞いに駆けつけてくれた奏斗さん。僕に汗をかかせる為の不本意な荒治療だと宣い、病人相手とは思えないハードなセックスを強いられている。 「ちんこ勃たねぇな····。先生ヤル気ある?」  僕のペニスに鼻と唇を擦り当てながら、熱い息を吹き掛ける芯。病み上がりのくせに、底なしの性欲を窺わせる。 「や··芯、待って····頑張ってくれて、も··勃たないから····」 「俺、下手くそ? いつもすぐ勃つじゃん」 「違····だ、からぁ··熱····ぅ··吐く····ゔぇ゙ぇ゙」  僕が胃液を絞り出す最中(さなか)、奏斗さんは反り勃った巨根を無理矢理ねじ込んでくる。 「ぅ゙べっ··がっ、ぁ゙、お゙ごっ、ぶぇ゙····ぅ゙え゙ぇっ」 「あ~··ナカあっつ♡ 今何度あんの?」 「さっき8度だったよ。なぁ先生、なんで薬飲みたがんねぇの? 飲んでくんなきゃ熱下がんねぇじゃん」 「らって··薬、胃が熱く、なる゙から··お゙ぇぇ····」  芯は、僕の声に耳を傾けながら、強引に僕のモノを飲み込んでゆく。奏斗さんが僕の少し硬くなったソレを支えている。根元を痛いくらい絞められ、グッと持ち上がった。  しっかりとしたペニスを、芯は易々と全て飲み込んだ。僕は、その(かん)に吐くものが無くなり、身を震わせながら嘔吐く。  僕と芯は、奏斗さんに跨っている。僕は芯へ挿れて、奏斗さんが下から僕に捩じ込んでいる。  芯の背中が胃液まみれだ。それが奏斗さんに流れ、想像を絶する惨状となっている。 「とりあえず汗かかせて、疲れさせて寝かしたら良くなるでしょ」 「だね。先生、ちゃんと出すまでトぶなよ?」 「む、り··、死んぢゃ··うぐぅっ」  こんなふざけた荒治療で、絶対に治るわけがないじゃないか。けれど、これを真面目な顔で言っている2人のイカれ具合にツッコむ余力もない。  朦朧とする中、前にも後ろにも走る快感でギリギリ意識を保っている。  芯は、僕のを搾り取るように腰を押しつけ奥を抉らせる。奏斗さんは大きく抽挿し、芯まで響くように時々奥へ突き上げる。  僕は、このまま死んでしまうのではないだろうか。フラッと芯に寄り掛かると、奏斗さんが下から手を引いて奥を抉り抜いた。

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