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第17話
俺がよく行くバーはカウンター奥の扉が2階に繋がっていて、そこがヤリ部屋になっている。
マスターは俺が未成年なのは知っているからお酒はくれないけど、怪しい人はご法度だから安全な相手を提供してくれる。
たまーに外れ引くけど。
希響さんは当たりだったな。
でも最近は全然来ていないらしい。
新しいセフレでもできたかな。
俺は、失恋してから新しいセフレを探しに行く気も起きなくて。
希響さんにあやしてもらって以来の触れあい。
会話も大してしていない相手とトントン拍子に話が進んでそのまま2階を借りることになった。
「ここに来たの、結構久しぶりなんじゃないの?」
「いやぁ、ちょうどセフレ切れたんで。」
「希響でしょ?何がダメだったん?
結構人気らしいじゃん。」
ばさりと上の服を脱いだ相手をベッドに腰かけたまま眺める。
見たことはあったけど会話したのは初めてだ。
今後もあまり関わらなさそうな奴だけど、別にヤらない理由もない。
椅子にポイっとトレーナーを投げた彼は俺の横に腰かけた。
「烏丸くんもなかなか俺らの中じゃ有名よ?」
「え、なんで?」
「エロくて有名。」
「……どうも~。」
不名誉~。
つまりは元セフレに知り合いがいるということか…。
もしやこれはハズレかな?
3Pとかする羽目になったら面倒だ。
「雑談とかいらないんで、さっさとシよ。」
「言ったら笑われるかもなんだけどさぁ、俺キスはあんまできないんだよね~。」
「どうでもいいけど、ちゃんとゴムつけろよ。」
「分かってるって。」
ニッコリ笑った彼に手慣れた手つきで押し倒された。
首筋に添わされる舌の感覚に「あぁ、こんな感じだったな」とぼんやり考える。
つーか風呂入ってないじゃん。
のしかかってくる身体を押し返す。
「風呂……。」
「自由だな~。ん、いいよ一緒に入ろ。」
呆れたように笑いながらも彼は俺の手を掴んで引き起こす。
勢いあまった俺を抱きとめてそのまま引っ張っていく。
風呂と言っても狭いシャワールームだけど。
たぶん中でヤってベッドでもヤるんだろうな。
どこか他人事な思考回路が愛撫でメルトダウンしていく。
変なことしそうにない人だし、まぁよかった。
今更ドキドキなんかしないけど、人肌は心地よい。
相手のベルトのバックルに手をかけながら、指先で形をなぞっていく。
「店長わかってんな、風呂場にもローションおいてんじゃん。
しかも温感。」
「っそんなに、使わないわけ?ココ。」
「大体、お持ち帰りかなぁ。」
徐々に熱をあげていく身体。
足元に絡まった衣服を蹴りだして、縺れ込む。
頭からお湯を被りながら、壁に押し付けられた。
不意に唇を押される。
そのまま親指が口内に入ってきた。
「あんた、口元可愛いよね。」
「…っん。」
「よく言われない?キスできないの残念。」
「んん…?」
口の中の親指を赤ちゃんみたいに吸っていたら、相手の瞳に熱が宿る。
それをじっと見つめながら、わざとらしく舌を這わせた。
ふと疑問に思ったことを口にする。
「なぁ、何でキスNGなの?」
「え~?うーん、彼女がいるからかな。」
その一言に動きが止まってしまう。
相手からは全く罪悪感が伝わってこない。
「うっわ……はは、サイテーじゃん。」
何やってんだ俺。
くそ。
泣きじゃくるメグ先輩の元カノの顔がチラついた。
以前の俺だったら、『ふーん』で終わっていたかもしれないけど、今回は違う。
タイミングがタイミングだ。
あと自分が失恋して、少し価値観が変わった。
昂りかけていた体が一気に醒めていく。
すっかりヤる気がそがれてしまった俺は、口の中の指を引き抜いた。
「なんか、やっぱりやめとく。」
「え?彼女持ちNG?」
「NG!帰る。」
「はっ?え、ちょっと。」
止める声も聞かずに、シャワールームを出た。
湯気を纏ったまま、床に落ちている衣服を拾い上げていく。
時折手を掴まれて強行突破をされそうになるけど、何とか躱す。
「彼女いるのがダメだったん?それともキスしたかったの?」
「あんたの彼女の有無がどうというより、ちょっとヤなこと思い出したの。」
「えぇ~、めっちゃヤル気だったじゃん、な?戻ろ?」
「シない。帰る。」
断固拒否といったオーラを出し続けたら、彼は面倒くさそうにため息をついた。
そして大人しく下着をはき始める。
濡れそぼった髪の毛をタオルで適当に拭く。
そのままそれを脱衣所に放り込んで、ドアに向かった。
そしてベッドに腰かけている彼を振り返って尋ねる。
「ねぇ、恋愛ができないってどういうことだと思う?」
「……え?ん~、分かんない。どしたの急に。」
「いや、別に。ごめん、なんか。じゃ。」
「下で暇そうな子いたら声かけといて。」
「はいはい。」
この節操なしめ。
いや、散々盛り上げといて帰る俺が悪いんだけども。
それでも『別にお前じゃなくてもいい』という感じがちょっとムカついた。
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