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第1話 オメガはモテる。

 オメガは滅茶苦茶モテる!!  それも男女関係なく… ベータ性もアルファ性も関係無くモテるのだ。  だからすごく怖い。  要するにオメガならば… "杉山マキ" という名前の僕という人間でなくても良いのだと、何となく人格を無視されているような気になるからだ。  マキは高校時代の同級生たち(主に女子たち)に…   「杉山君…って、本当に可愛いね! 髪サラサラ! お人形みたいに顔小さっ!!」 「・・・・・・」 <僕はオメガでも男だから、女子の君たちより、ずっと身体は大きいのに、可愛いとか平気で言うんだ?>  女の子たちに何かを言われるたびに、マキはいつも心の中で、ツッコミを入れた。 「もう、神様が作った最高傑作(けっさく)の芸術人間だよね――!!」 「・・・・・・」 <芸術人間て何だよ?! 僕がサイボーグか、ロボットみたいな言い方止めろよ! 僕を作ったのは両親だよ、せめて僕の親の最高傑作って言えよ!!>  「私たちは杉山君が居れば、彼氏なんて要らないから!!」 「・・・つ」 <彼氏は要らないと言いながら、学校の手前まで仲良く彼氏と登校する君たちを、僕は何度も目撃したぞ?! ほんと人間なんて嘘を平気でつく生き物だよな!!>  そう言ってオメガのマキを女の子たちは、学園のアイドル(ダサッ!止めろよ!!)へと仕立て上げた。  確かにマキはオメガらしい、ヒョロリと細身の身長は170cm弱(もっと伸びることを本人希望)で…  女の子よりは少々ゴツイが、同級生の男子に比べれば、身長はともかく華奢(きゃしゃ)な印象を受ける、世の中で流行している中性的なオメガ男子である。  オメガやアルファ性の人間は、人口の1~2割程度しかいないから… みんな、珍しがっているのだ。  マキの学校側でも… 入学式の後で校長先生に呼び出され、面談した時に聞いた説明では… 「オメガの生徒を受け入れるのは、5年ぶりなんだよ… 若い先生たちはまだ、オメガ性の生徒を受け持った経験が無くてね… 杉山君も不便なことだとか、困ったことがあったら遠慮なく担任の先生か、私に言って欲しいのだよ」  「分かりました校長先生」  入学したてで15歳のマキは、素直にコクリとうなずいた。 「苦労することもあるだろうが、負けずに良い思い出をたくさん作って下さい」 「はい、ありがとうございます校長先生」    そんなマキの珍しさが、それまでオメガやアルファと接したことの無い、ベータ女子たちを熱狂させた。 「私の大好きな俳優ってみんな、杉山君みたいなオメガ男子なんだ!! 栗田君も、逢坂君も、みんなオメガ!! もう、オメガ様最高!!」 「・・・っ!」 <オイオイ、"様" は止めろよ! "様" は! うわっ… 寒っ!>    嫌われるよりは、好かれている方が良いだろう? と思うかも知れないが… はっきり言ってマキには大迷惑だった。  発情期も無く、ベータ性男子とほとんど変わらない、素朴な外見だった中学時代までは…   平凡な一般家庭に生まれ育ったマキは、友人もソコソコいて、普通に生活していた。  高校に入学し半年ほど過ぎたころ、ある朝起きた時に、身体が熱っぽいことに気付き…  もしや? と、あわてて母親とかかりつけの医者に診てもらったら、発情期と判明し、その日からマキの生活は何もかもが変わってしまった。 「あ! マキ君、発情期むかえたんだって? これで大人の仲間入りだね、おめでとう!!」  マキにとっては、微妙で繊細な問題を、親しくも無いクラスの女子にサラリと言われ… 「何だって?!」 <今… 発情期って言った?!>  マキは自分の耳を疑った。 「コンビニでお赤飯のおにぎり、買って来たヨ!! 私も初潮の時にお祖母ちゃんが作ってくれたから、食べたもん! だからマキ君もお祝いだから食べて、食べて!!」  悪気は無いのだろうが、ニコニコと笑いながら女の子に言われると…  流石にマキもカチンときた。 「何で君らが、僕が発情期だったこと知ってるの?!」  全身を真っ赤にそめて、マキはそっけなく同級生の女子からお赤飯のおにぎりを受け取り、たずねた。 <誰が僕の発情期をバラしたんだよ!!>  思春期、真っただ中の少年には、これほどキツイ経験は無い。 「副担任が、杉山君は発情期で辛い状態だから、心配でも連絡を無理に取ろうとしない様にって…」 「・・・っ?!」 <頼むから僕のことは、そっとしておいてくれ!!>  性に対して興味はあっても、内気で消極的なマキは、 自分が初めての発情期をむかえたことを、口に出すことさえ嫌だった。  それを担任にバラされ…  恥ずかしくて、恥かしくて、本気で死にたくなった。  そして…  初めての発情期をむかえ、身体の内側だけではなく、外見にもオメガの特徴があらわれ始めた。  平凡男子だった容姿は… 何となく艶っぽい色気を漂わせる美少年へと、マキ本人が気づかないうちに… じわじわと… ゆっくり変化していったのだ。

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