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第8話 返信
大学生になったとはいえ、経済的にとか… オメガの体質のせいとか… 少し遠いけど通えない距離ではないからとか…
いくつか理由があって、マキは実家暮らしを継続している。
1人暮らしに憧れてはいるけど、変な誘いを受けたり、ストーカー行為スレスレの待ちぶせに会ったりと… 高校時代から何かと不安要素を多く抱えるマキは、学生のうちは親に甘えられるだけ甘えようと、割り切ることにしたのだ。
今朝はいつもより30分早く起きて、食事も大急ぎで食べ終わると… 家を出るまでの20分(今朝は30分早く起きたから50分)で… メールチェックを済ませようと、メールアプリを立ち上げた。
マキは相模からの返信を、別に期待してはいなかった。
表向きは。(このことを誰かが知っているわけではないけれど)
<だけど、僕からアドレス付きで送ったわけだし… チェックするのは当たり前だし… 万が一返信が届いたら、すぐに気付かないのも失礼だし…>
言い訳じみたことを考え、何となく緊張感でポチポチする指を震わせ… "相模エイジ"の名前を見つけ、思わず拳をギュッと握り、ガッツポーズをする。
「よっし!!」
ドキドキと、自分でも上手く表現できない、何かを期待しながらメールを開く。
"こちらこそお役に立てて嬉しいです。
真面目に頑張っている人が、大した理由も無く踏みつけられて傷つくのは、我慢ならないから、今回は君のためにというよりも…
私自身の個人的感情が大きく作用し、何もせずにはいられなかったのです。
また何か困ったことがあったら連絡を下さい"
「わぁ!! 嘘みたいだ~っ!! 来た来た来たよぉ~!! "連絡を下さい" だって!! 何かすごく嬉しい!! 感動した~!!」
椅子から立ち上がると、マキはみょうに興奮し、パタパタと部屋中を歩き回る。
「ひゃあぁぁぁぁ――――――っ!! 相模さんって大人だぁ!! やっぱり良い人だぁ!!」
ぴたりと立ち止まり、もう一度メールの文面を見て、マキは再びパタパタを歩き回る。
「んんんん~? でも…」
<問題が無くても、返信したら迷惑かなぁ?>
興奮が一旦落ち着くと、もう一度相模からのメールを読み… 椅子に座り姿勢をただすと、マキはメールをを打った。
"相模さんのお言葉に甘えて… 質問があります。
僕がオメガだから、学友たちは僕を特別扱いします。
だから僕には1人も、本当の友人がいません。
襲われた時も、その後も、僕を心配し寄り添ってくれたのは相談窓口の女性職員だけでした。
僕はとても怖いです。 今までのように、これからも一生ずっと1人なのかと思うと…
だからと言って、僕に近寄って来る人たち、『3万出すから抱かせてくれ』と土下座する人や…
『マキ君を正しく鑑賞し、魔の手から守る会』とか、変な団体を作り、集団で僕に対してストーカー行為を、繰り返すような人たちとは友達にはなれません。
アルファの相模さんは、こんな経験ありますか?"
「やれやれ、これはまた災難だな杉山君も… 可哀そうに!」
相模は自分のオフィスで、マキのメールを見ていた。
涙をこぼす綺麗な横顔を思い浮かべ、あの容姿では無理もないかと… 気の毒そうに相模は首を横に振り、返信のメールを打った。
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