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第21話 いまだ童貞。
自販機の前で甘い缶コーヒーを飲みながら、マキはぼんやりと過去を振り返り… 23歳を越えたあたりから、毎年誕生日の時期に襲われる憂鬱 な気分に耐えた。
「明日で僕も26歳かぁ… 早いな」
そしていまだにマキは、童貞である。
<大切に童貞を守って来たつもりは無いけど、誰にも捧げられなかったなぁ~…>
上手くシャツの下に隠してはいるが、ネック・ガードもしっかり装着していた。
「ふふふ…」
<さっさと誰かに捧げてしまいたい! いや、奪われても構わない!! 誰かにお願いしてみるか?!>
社会人になってから、数人のアルファと知り合いになったが、全員が同じ会社の社員で… ほぼ、相模家の親類縁者らしい。
自分がオメガだと、会社で宣言しているわけではないから、マキがオメガだと知る社員(ベータ)はとても少ない。
だが、アルファたちには当然、言わなくてもマキがオメガだと本能で知られている。
(抑制剤を飲んでいても、常に微量のオメガフェロモンを、放出してしまうせいだ)
<いやいや、さすがに同じ会社の人たちにお願いするのは気が引けるしなぁ…>
会ってみると抑制のきいた紳士と淑女たちばかりで、人事の面接担当にきっと見る目があるからなのだろう。
「ゲイのベータ男子とか探してみるか?」
<でもなぁ~… たった1度だけど、溺れるようなアルファのキスを経験したから、どうしてもあれ以上のキスを求めてしまう…>
ベータ男子が相手だと、マキの望みは絶対に叶わない。
<そんな贅沢 をいつまでも言っているから、僕は童貞のままなんだ… たぶん、あの経験が無ければ、もっと性体験を積んでいたかもしれないなぁ…>
だからと言って、相模とのキスをマキが後悔しているかと言うと、やっぱり良い経験だったとしか言えない。
<このまま行くと、結婚どころか一生童貞のまま人生を終わりそうだ… まぁ一応、そうならないように鯉山君と交渉中だけどね>
去年の誕生日に鯉山と一緒に呑みに行った時…
『ねぇ、鯉山君! お互い30歳になっても童貞のままなら、僕たち結婚しない?』
すごく名案だと思ったのは、マキだけだった。
『え? 何で?!』
ものすごく嫌そうな顔をする鯉山。
『だって僕はオメガだから、子供産めるし… 産むなら早い方が良いらしいから、僕の場合はさぁ…』
男性オメガの場合、多産傾向にある女性オメガと違い、身体の構造上の問題で、妊娠出産はかなりの負担になり、子供を産む人数も1、2人と少なく… 出産時のリスクが女性オメガよりも何倍も高くなるのだ。
『いや、マキ君… 君も僕も男だし、結婚は無理だよ? 一生友達で良いじゃないか』
鯉山の反応はけして、偏見や差別ではない。
単に好みの問題である。
『ええ? ダメ?! 良いと思うんだけどなぁ? だったらセックスは? 僕は童貞のままで死にたくないし』
更に嫌そうな顔をする鯉山に、マキはちょっとだけ傷ついた。
『そんな顔しないでよ鯉山君、僕と一緒に新たな扉を開いてみようよ? ね?』
『うう――――んん… 考えておく』
<鯉山君がアルファだったら、最高だったのになぁ~>
自分でそう考えて、苦笑した。
鯉山がアルファだったら、マキと親友にはならなかったはずだからだ。
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