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第23話 再会

 ふとマキが目を開くと、頭がクラクラして額に手を当て、重い頭をささえる。 <あれ、寝てた? なんか良い匂い…? いや、これってフェロモンじゃ…? 誰だろう、営業の吉田さんかな? 何かすごく強くないか…>  営業部所属のアルファの吉田に、マキはちょくちょく食事に誘われていた。  まだ、誘いに1度も応じたことは無いが… 噂では、婚約していたオメガと別れたらしく、新しい相手を探しているらしい。  何気なくマキが見まわすと、自分の隣に知らないアルファが座っていた。 「ひゃっ…!!」  マキはその場でウサギのように飛び跳ねそうになるが… 大きな掌で両肩をギュッとつかまれ、有無を言わさず唇を奪われた。 「うう…っ!? むううう――んんっ!?」  必死で抵抗するが、マキの抵抗などものともせず… 肩を放しゴツイ手でマキのうなじをネックガードの上からつかみ、見知らぬアルファは唇を奪うだけで無く、口内に侵入しマキを味わおうとする。  必至で唇を閉じ、マキは見知らぬアルファのゲスな舌を拒んだ。 <このセクハラ野郎――――っ!!! お前のナニをちょん切ってやる!!!!>  押しても、引いても、たたいても解放されず、それどころがグイグイ唇を押し付けて来る。  見知らぬアルファの強烈なフェロモンシャワーに包まれたマキは、頭がクラクラとして身も心も溺れそうになるが… 合成フェロモンと、強い抑制剤のおかげで、何とか溺れずにマキは正気を保っていた。  ギリギリギリギリギリ――――ッ…!!! ギリギリギリギリギリ――――ッ…!!!  固く閉じた唇の下で、怒りと屈辱でマキは歯ぎしりする。 <このゲス野郎!! ゲス野郎!! ゲス野郎!!>  涙がにじみギュッと目を閉じた瞬間… 不意に唇が解放され、ガッチリつかまれたうなじの手が外れた。 「うわっ――――!!!」  見知らぬアルファが情けなく叫び、ドサッ… と背中からベンチの下に落ち、冷たい床の上で仰向けになって転がっていた。 「ううっ…」 <おえっ~! 気持ち悪っ…! 気持ち悪っ…! 気持ち悪っ…! 気持ち悪っ…!!>  顔を真っ赤に染めてマキは涙目で、唇が気持ちが悪くて、ごしごしと手でぬぐっていると… 誰かがふわりと抱き上げる。 「うわっ?!」 「すまないマキ! 大丈夫か?!」  抱き上げられたマキに、至近距離で心配そうにたずねる見覚えのある顔。  切れ長な一重の目がすごく綺麗で、シュッと鼻筋が通りシャープな頬が何とも言えない、格好良さと艶っぽさがある、日本人らしい古風な美男子… 「エ… エイジさん?!」 「私の顔を覚えてくれてたか、嬉しいよマキ!」 「本当にエイジさんなの?」  記憶していた相模の声よりも、ずっと甘い声で名前を呼ばれ… 目の前にいる人物が、本当に自分の知る人物なのか分からなくなった。 「私だよマキ!」  目が離せなくて、マキはひたすら相模を見つめ続けた。 「クソッ… 痛てっ…!! 酷いよエイジ兄さん!! いきなり、何するんだよ!!」  マキを襲った見知らぬアルファが、怒鳴り散らす。  大きなため息をつきながら、相模は嫌そうにマキから見知らぬアルファに視線を移した。 「カズヤ、この件はただでは済まさないからな! お前はクビだ! 今すぐここから出て行け!!」  恐ろしく冷たい声で、相模は怒りをあらわにする。 「なっ… たかがオメガに触っ…」  見知らぬアルファの顔が強張り、青ざめてゆく。 「お前は社員にセクハラをした、今すぐ出て行け!」  相模はプレッシャーをかけて、自分のフェロモンを放ち見知らぬアルファに向かって威嚇(いかく)しているのだ。 「何だよ… 兄さんの… ものならそう言ってくれれば…」  慌てて見知らぬアルファは立ち去るが…  腕に抱き上げられたマキまで、相模の威嚇の影響を受け…  身体がぶるぶると震え、そのまま気を失った。

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