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第24話 鯉山君は童貞ではない。

 日本に帰国してから2週間、相模が泊まっているガーランドホテルのベッドで…  眠るマキに相模は声をかけ続ける。 「マキ! マキ! 眼を覚ましてくれ…」 「・・・・・・」  大きな掌で頬をなでられたり… マキの額やまぶたにキスらしきものを落とされたりしながら… 自分の名前を呼ばれていると、マキは少しずつ覚醒してゆく。 「マキ!」 「うんんん…?」  と見上げると、相模と目が合い… マキは、ジッ… と綺麗な黒い瞳を見つめ続けた。 「マキ… 悪かった! 従弟に腹が立って、ついあいつをねじ伏せようとしたら… 君にまで… 圧を掛けてしまった」  困った顔で相模は、唇にもそっと軽いキスを落とし… ぴくりっ… とマキは反応してしまう。 「あれは… 驚いた、すごく息苦しくなって、そうしたらあなたのフェロモンに襲われて…」  自分の頬をなでる大きな手をマキが捕まえると… キュウッ… と逆に相模の綺麗に爪を整えられた手でにぎられた。 「目の前で君を奪われて、我を失ってしまったというか… 怒りに支配されて」  にぎり締めたマキの手の指に、相模は1本づつ丁寧にキスをする。 「本気でアルファが怒ると、ああなるのですね?」 「滅多にあんな怒り方はしないから、安心してくれ」  また相模は、マキの唇にキスを落とす。 「んん…っ? エイジさんは、なぜさっきからキスをするのですか?」 <嫌ではないけど… これは少し恥ずかしいよ… だって久しぶりに会ってこんなにキスされるなんて…>   「もう、一瞬も時間を無駄にしたく無いし… 君の童貞を奪いたいから!」  相模はけろりと爆弾発言をする。 「ええ?! なななな… なにを言っているのですか?」 <童貞を奪う?!>  ギョッとするマキ 「君… 鯉山君に30歳になっても童貞だったら、結婚しようと言ったそうだね?」  ニヤリと相模が意地悪そうに笑った。 「ななな… 何でそれを知っているのですか?!」  ずばりと言い当てられて、マキの頬がカァーッ… と熱くなる。 「もちろん、鯉山君本人に聞いたからさ」 「何で鯉山君が?! まさか彼とエイジさんは、連絡を取り合っているのですか?!」 「いや、この間が初めてだったよ… 大学で君と初めてキスをした日に、私は研究棟から学食に引き返して、君が困っていたら教えて欲しいと、こっそり私の連絡先を鯉山君に渡したんだ…」 「あの日ですか?!」 「そう、あの日だよ… 君は私を嫌いになってから、1度も連絡をくれなかったけれどね、もしかすると気が変わるかもしれないと、番号は変えなかったのに」 「そ…  それは…」 「鯉山君をあまり、困らせてはいけないよ? 彼には好きな女性がいるらしいし、それにもう童貞では無いらしくてね」 「ええええええ――――っ?!!」  すごく不満そうな声のマキに、相模がムッ… とする。 「鯉山君は君を傷つけたくなくて、悩みに悩んで私に連絡を寄こしたんだ」  鯉山自身も何年も前の連絡先が、今も通じるとは思っていなかったが… 相模との関係を絶った後、マキが後悔し引き摺っていたことを知っていた為、鯉山はダメで元々だと、一応試したのだ。  真赤に染まった頬をマキは自分の手で隠し、心で叫ぶ。 <鯉山君――――っ!!! サンキュー――――っ!!!!!>

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