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第25話 相模のフェロモン事情。

 相模はマキが寝転ぶベッドの上で、シュルシュルとネクタイを解き、ワイシャツのボタンを外し始める。  ドキドキと服を脱ぐ相模をながめながら、マキは緊張で唇がかわき何度もペロリペロリとなめて濡らした。 「マキ… 君はどうして平気で、話していられるんだ?」  不意に何かを思い出したように、相模がたずねた。 「んん? 平気で話すとは…?」  質問の意味が理解できず、マキはきょとんと首をかしげた。 「私は君を全力で誘惑する気だったから、今日はアルファの抑制剤を服用していない… 普通なら、言葉もつむげないほど、一気に発情して酩酊(めいてい)状態のようになるのだが?」  本気のアルファは、相模のような常識人でも、欲しいとなれば手段を選ばなくなるらしい。  そんな悪辣(あくらつ)なことを相模が考えていたのかと知り、マキもさすがに引き気味になる。 「エイジさん… 僕はそうなるのが嫌で、合成フェロモンを使って身体を慣らしてあるので」 「なるほど… 私もオメガの合成フェロモンを使って、耐性をつけているから一緒だ、さすがマキだな!」  亡き妻の親友にはめられそうになった時から、相模は始めていた。  マキを惚れ直したと、満足そうに相模は微笑む。 「それに今日はオフィスでずっと、アルファのフェロモンがフワフワ漂ってて、さすがに1日中だと影響を受けてしまうから… 今は強い抑制剤を飲んだばかりなので」 「ああ、それは私のフェロモンだ」 「え? あれって、エイジさんのだったの?!」 「君の仕事が早く終わらないかと、何度も、君のオフィスをこっそり見に行ったから…」  そわそわと落ち着かない、相模の挙動不審(きょどうふしん)な態度に興味を持ったゲス従弟カズヤは… 相模に付いて回り、ベンチで居眠りするマキを、相模よりも先に見つけてしまい手を出したのだ。  相模の側近として(きた)えて欲しいと、ゲス従弟カズヤを親類に無理やり押し付けられたが… マキにセクハラしたことで、烈火のごとく怒り狂った相模は押し付けて来た親類に『(しつけ)が悪い、ゲス・アルファは目(ざわ)りだ!!』 と抗議してから追い返した。 「どおりで、強いフェロモンのはずだ!」  ずっと誰だろうと、警戒していたマキはようやくホッと落ち着く。  相模エイジは直系筋の次男である。  跡取りの長男は実家と一族を守り… 相模家が運営する事業を守るのは、次男エイジの役目だった。  ビジネス界での相模家と言えば、跡継ぎの長男ではなく、次男のエイジの名が出る。 「マキ、相模系列の会社は他社に比べると、親族をたくさん起用しているから、アルファが多いのは知っているな? だから君のような美しいオメガは気をつけなければいけないよ?」 「本当に注意不足でした… でも… んっ!」  そもそも、注意力散漫(さんまん)になった原因は、相模のフェロモンのせいだと、大人げなく口に出しそうになったマキだが…  相模に耳を甘噛みされ、何を言いたいか分からなくなった。 「君が2度と怖い目に遭わないよう、私の匂いをタップリつけてしまおうね?」  耳元で相模は囁くと、マキの唇を塞いでしまう。

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