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【2日目】ごちそうさまでした、貴船
その清涼感を、野趣溢れる景観を、そして次々に出される上品な料理を、煜瑾たちは心ゆくまで楽しんだ。
煜瑾が特に気に入ったのは、冬瓜と茄子の焚き合わせで、翡翠のように透明感のある冬瓜の美しさに魅了され、口にしてその優しく馥郁とした味わいに感動さえ覚えた。
小敏は、お造りとして出された、これもまた京料理の名物だが季節を先取りした鱧の落としにハマった。日本通の羽小敏は、鱧と言えば梅ソースで食べるものだと思っていたのだが、この店のオリジナルの酢味噌が絶品で、鱧だけでなく他のお造りまでこの酢味噌で食べたいと言い出す始末だった。
「鮎の塩焼きが来たよ~!」
嬉々とした茉莎実の声に、みんなの顔が綻ぶ。この旬の川魚を全員が期待していたのだ。
「わ~、カワイイ」
お皿に乗った20cmほどの川魚を、煜瑾は愛しそうに眺めた。
〈こうして食べるんどすえ〉
茉莎実の祖母は、そう言って伝統的な鮎の塩焼きの食べ方のデモンストレーションを始めた。
「まず、お箸で全体を押さえて、骨と身を外すでしょ。それから…」
茉莎実は、祖母の動きを追うようにして急いで煜瑾たちに通訳をする。煜瑾たちは、それを見よう見まねで実践する。
〈さあ、これで頭から骨を抜いたら…、ほら、キレイに骨も取れましたやろ?〉
「おお!」
煜瑾たちは、声を上げるほど驚嘆する。見事に骨がスルリと身から抜け、残った身はそのまま食べられる状態となった。
ワイワイ、キャーキャー言いながら、鮎の骨抜きというイベントを、全員が楽しんだが、日本人の2人はともかく、3人の上海人は悪戦苦闘した。
〈ボク、今日から毎日鮎を食べて練習する!〉
負けず嫌いの小敏は、冗談めかしつつもそんなことを言い出した。
〈ふふふ。鮎やったらなんでもエエというわけにはいきませんえ。新鮮で、肉厚の、上質な鮎だけしか、上手に骨抜きできひんのどす〉
茉莎実の祖母の冷やかすような言い方に、小敏はキョトンとして、すぐに気付いて明るく微笑んだ。
〈じゃあ、来年もまた来ます〉
〈そうどすな。それがよろしおす。毎年、来なはれ〉
そう言って、小敏と茉莎実の祖母は、声を上げて楽しそうに笑った。
煜瑾と文維は、茉莎実に見守られながら、鮎の骨抜きに挑戦したのだがうまくいかず、そのまま骨に注意しながら身をほぐすようにして食べていた。
「塩味がとってもまろやかで、シンプルな調理なのに味わいがありますね~」
「この『たで酢』の苦味が鮮烈で、サッパリして美味しいですね」
小さな川魚を、たっぷりと堪能し、一同は満足した。
他にも山菜尽くしの天麩羅や、若い上海人たちが喜ぶようにと用意された丹波牛の和風ステーキなど、盛りだくさんの料理が出され、最後に豆ご飯と筍のお吸物で春の名残を堪能し、こちらは季節を先取りした水菓として西瓜を出された。
「どれも美味しくて、こんなにたくさんのお料理なのに、全部食べてしまいました」
煜瑾がたくさん撮影した画像や動画を振り返りながら、はしゃぐように言うと、みんなも嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。明日もあるし…」
茉莎実の言葉をきっかけに、タクシーが呼ばれ、一同は貴船を後にした。
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