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【2日目】川床で乾杯!

〈お飲み物は?〉  柔らかい笑顔の仲居さんに訊ねられ、小敏はドリンクメニューを端から端までしっかりと読み込む。 「which do you recommend(おススメは)?」  煜瑾が得意の英語で茉莎実の祖母に質問すると、彼女は口元を隠すようにして、ほほほ、と笑った。 「お祖母ちゃんは、日本酒の冷酒って決まってるのよ。オススメなら、お店の人に訊いた方が間違いないって」  茉莎実に言われて、煜瑾は大きく頷いた。 〈おばあさまが冷酒なら、ボクも!〉  小敏は、茉莎実の祖母に甘えるようにそう言うと、人好きのする明るく無邪気な笑顔を浮かべた。その屈託のなさに、ついつい周囲の人間は心を許してしまう。 〈今日のお料理に合う、おススメの飲物は何ですか?〉  3人のイケメンに目を奪われていた仲居さんは、茉莎実に声を掛けられ、ハッと我に返ると、すぐに営業用スマイルで答えた。 〈今日のお料理に合うのは、やっぱり松鶴堂さんお気に入りの冷酒どすやろなあ。日本酒が飲みなれてないとおっしゃる海外のお客様には、辛口の白ワインもオススメしていますけど…〉  仲居さんの言葉を、茉莎実が素早く通訳すると、ワイン好きの文維が口元を緩めた。 〈お酒がお強うない方には、梅酒のサワーとかが人気どすな。梅酒はウチの店で漬けたものどすえ〉 「このお店オリジナルの梅酒で作ったサワーがおススメですって。私もそれにしようかな~」  茉莎実の言葉に、煜瑾も目を輝かせた。 「日本の梅酒は私も大好きです!」 「じゃあ、煜瑾と私は梅酒サワー。おばあちゃんと小敏は冷酒、文維先生は?」  茉莎実の質問に、文維より先に煜瑾が口を開いた。 「文維は、白ワインですよね」  無邪気な煜瑾の笑顔に、文維は満足そうに頷いた。  全員の飲物が決まり、改めて煜瑾は周囲に目を配る。  新緑の清涼感に包まれ、心地よい清流のせせらぎを聞きながら、マイナスイオンたっぷりの空気を胸いっぱいに吸いこむと、全身が浄化されていくような気がする。 「こんな風に自然の中で、身も心も清められて、とっても健康になるような気がしますね」  煜瑾がそう言うと、文維や小敏も大きく頷いた。 〈さあ、まずは乾杯どすえ〉  それぞれ注文した飲物と同時に、見た目も麗しい八寸が並べられた。 〈今夜はお任せの鮎懐石どすさかい、ゆるゆるお食べやす〉  茉莎実の祖母の一言をきっかけに、一同は思い思いの飲物が入ったグラスを持ち上げた。 〈乾杯~〉「乾杯~」  全員が満面の笑顔で、日本式にグラスを合わせた。 「うわ~。カワイイですね~」  懐石料理の細やかな作りの八寸は、ミニチュア好きの煜瑾の特にお気に入りだ。 「このヌルヌルしたのは、貴船川で採れた岩海苔なんだって」  小敏の説明に、煜瑾はドキドキしながら、ちょっとグロテスクな物を口にした。 「出汁と酢の味ですね。さっぱりして、見た目はともかく味は美味しいですね~」  満足そうに言って、煜瑾はさらにお箸を進めた。

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