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第54話 バレていた

 結局、それぞれ部屋に連れて帰られてしまってから、お互いの相手を驚かせよう、と偽カップルのままいったん部屋まで大人しく戻った。  偽ジョゼは部屋に戻った途端に、隆二に本当のことを打ち明ける。 「リュウジさん」 「なんだよ、その呼び方。ヨシュアみてぇじゃないか……って、お前、ヨシュアかっ⁉」 「へへへ。今まで全然気づいてなかったでしょ」 「驚いた……いつから入れ替わってたんだ?」 「最初から。ボクがトイレに行った時に」 「なんでまたそんなことを……」 「どっちが先にバレるかサプライズのつもりだったんだけど、ふたりとも最後まで気づかないんだもん」 「そりゃあ、だって……しかし、本当にヨシュアか?」  隆二はまだ疑っているようである。 「じゃあ、太一が連れて帰ったのがジョゼか……まずいな」 「どうしてまずいの?」 「あいつ、かなり酒飲んでたからなあ……酔っぱらってジョゼを襲うんじゃねぇか?」 「えっ! それはまずいっ!」  ふたりは慌てて太一の部屋へと向かった。  ただでさえ見分けがつかないのに、酔っぱらっていては見分けなどつくはずがない! 「ヨシュア……ほんとにキレイだな……いつも可愛いけど」  部屋に戻った途端、太一は玄関先で偽ヨシュアを抱きしめる。  不意打ちで、ジョゼはドキドキしてしまう。  隆二は玄関先でいきなりそんなことをしたりしないのだ。 「どうした、ヨシュア……顔、上げろよ」  太一がジョゼの頬に手をかける。  まずい。まずい。まずい。  でも、ジョゼは固まってしまっていた。  ずっと前。まだ隆二を知らなかった頃。  一度だけ太一がキスをしてくれたことがあったのを思い出してしまう。  あの時は頬だったけど…… 「タイチ……」  太一はにっこり微笑んで、ジョゼに唇を近づける。 「ご、ごめんっ! タイチっ! オレ、ヨシュアじゃない。ジョゼだ!」  思わずジョゼが太一を突き飛ばそうとすると、太一がジョゼの腕をつかんで壁に押しつけた。 「知ってたぜ、ジョゼ」  太一がニヤリ、と笑う。 「俺が気づかないとでも思ったか」  ポカリ、と太一に頭を小突かれて、ジョゼはホっとする。 「このまま黙ってたら、襲ってやろうかと思ったぞ」 「ごめん……」 「どうせこんなこと、ヨシュアが思いついたんだろ。あいつ、突然トイレ行くとか言い出したしな」 「うん……途中でバレてサプライズになるはずだったんだけど」 「気づいたけどさ。お前らが必死で演技してるのが面白くて、黙って見てた」  太一は思い出すように、ニヤニヤ笑っている。  考えたら、ジョゼはほとんどしゃべらなかったので、バレても当然である。  おしゃべりなヨシュアがパーティーでしゃべらないことなどあり得ない。 「しかし、隆二はほんとに気づいてなかったかもしれねぇな」  ふたりで笑っていたら、玄関の外にドタバタと足音が聞こえた。 「おっと、ジョゼ、こっちに来いっ……早くっ」  太一に引っぱられて、ジョゼはリビングに連れていかれる。 「いいか、じっとしてろよ。ヨシュアにはお仕置きだ」  太一はいきなりジョゼをソファーに押し倒して、おおいかぶさった。 「ちょ、ちょっと……タイチ……」 「いいから、黙ってろ。ほんとに襲ったりしねぇから」  バタン、とドアが開いた音がして、ヨシュア(本物)と隆二が飛び込んでくる。 「ヨシュア……ヨシュア……好きだ……」  耳元で太一に囁かれて、ジョゼは心臓が跳ね上がる。  演技だといっても、太一の熱い吐息が耳元にかかって、唇が首筋をかすめるのだ。  思わず喘ぎ声のような声が出てしまった。 「あっ……タイチっ……」  ヨシュア(本物)は目を見開いて固まり、隆二がすっとんできて太一をジョゼから引きはがす。 「こらっ、バカっ、太一っ! 離れろっ! それはヨシュアじゃないっ。ジョゼだっ」 「なんだよっ、隆二! 俺のヨシュアに触るなっ!」  ジョゼを抱きしめようとしている太一を見て、ヨシュアはぷるぷる震え出した。 「ごめんっ! タイチ……ジョゼを抱かないでっ、ボクはこっち!」  泣き出しそうに叫んだヨシュアの声を聞いて、やっと太一はゆっくり立ち上がる。 「ヨシュアのバ~カ。俺がヨシュアを見間違うかっての」 「わ~ん、ごめんなさい~!」  隆二はあっけにとられて呆然としていたが、ジョゼが小声で隆二に囁く。 (タイチがヨシュアにお仕置きだって……)    なんだ、そういうことか、と隆二は安堵する。 「ごめんなさい、タイチ……冗談のつもりだったのに」 「今度騙したら、ほんとにジョゼを襲ってやる」 「ごめんごめんごめん……2度としませんっ」  太一は笑いながら本物のヨシュアを抱きしめる。 「リュウジは本当に最後まで気づかなかったのか?」 「ああ……悪ぃ。ジョゼはパーティーがあんまり得意じゃねぇから、どっか具合でも悪くなったんじゃねぇかと思って、あんまり話しかけねぇようにしてたからさ」  隆二は太一が気づいていたのに、自分は気づいていなかったので、バツが悪そうである。 「でもね、ジョゼ。リュウジさんは最初から最後までずっとボクの手を握ってくれてたよ。一度も離さなかった。リュウジさん、優しいよね」  ヨシュアがとりなすように言うと、ジョゼは隆二の顔を見上げる。  そうだ。  リュウジはタイチのようにオレを放っておいて他の人とおしゃべりしたりしないんだ。  だいたい偽ジョゼは黙ってるだけでいいんだから、見分けにくいだろう。 「タイチはどうして、ボクじゃないって気づいたの?」 「ああ、それはな……」  タイチはヨシュアの耳をぎゅっと引っぱる。 「いてて……何するのっ」 「お前は、こっちの耳の後ろに可愛いホクロがあるんだよっ」  誰一人気づかなかったのに、そんな小さな違いで、太一は自分のことを見分けてくれていたのだ、とヨシュアは感動する。  たまには入れ替わってみるもんだな、とヨシュアもジョゼも思っていた。  それぞれ自分の恋人のいいところを発見したような気分である。 「ところでなあ、ヨシュア……お仕置きはまだ終わってないぞっ!」  突然太一ががばっとヨシュアを後ろから襲う。 「そうだっジョゼ、お前もだぞっ!」  隆二も思い出したように、ジョゼをソファーに押し倒す。 「えっ……ヤだっ……タイチっ! やっ……ああっ……あああっ!」 「リュ、リュウジっ!やめっ……あっ……ああああぁ……」  例によって元人間ふたりに襲われて、吸血鬼二人は悲鳴を上げる。 「しまった、今のもビデオに撮っておくんだった」  太一はニヤリ、と隆二に笑いかける。  舞妓姿の美しいヴァンパイアがダブルで襲われる名場面だったのに、と隆二もちょっと悔しい思いだ。  そしてその晩、ふたりのエロビデオのコレクションが増えたのは言うまでもない。 【番外編SS6 Change ~End~】 ----------------------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます! ごくごく初期の作品で、まだダラダラと番外編は続いていたのですが、このへんでいったん完結にしときます。 また、気が向いたら編集して更新するかもしれません。

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