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第13話
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そこにいたった経緯はどうあれ――。
一年半ぶりに伴侶のもとに帰還し(しかもその当人の誕生日に。サプライズプレゼント要員として)、その後まだたったの一日ほどしか共に過ごしていないのにもかかわらず。
・・・いや久しぶりだからこそ、こうまで一気呵成に箍が外れパンクしたともいえそうだが・・・。
まるで小さな子供みたいに。ただその感情の赴くまま・・・。
なにも抑えることも隠すこともなく、自由奔放な振る舞いをしてみせる無邪気な彼を。
かと思えば――立場と権力とコネとを最大限に活かし。某国の国家機関まで巻き込んでまで・・・大事な大事な小鳥(黒子)を隠し閉じ込めておくための鳥かごを、金に糸目をつけず拵えてしまうほどの。
・・・並みの者では到底受け止め切れぬほどの依存や、執着や、盲愛ぶりでもって雁字搦めに絡めとろうとする・・・怖いくらいにひたむきな彼までも。
なんだかんだ、結局のところ、つまりは・・・。
――そう要するに、ボクでもオレでも天帝でも魔王でも・・・どんな赤司征十郎であろうと、『愛さずにはいられないんだ』という事実を、またも思い知らされたばかりか(いったい幾度目だ)。
・・・だけでなく家柄にも美貌にも知性にも恵まれた――『欠点などどこにも見当たらない』と言い切ってしまえるくらい・・・何から何まで兼ね備える選ばれし男と、相思相愛の間柄であるという奇跡や。
そんなふうに何もかもを持ち合わせているからこそ、すべてに勝ち続けることを宿命付けられる最強の彼が、唯一戦闘服・・・もとい、テーラーメイド(もちろん代々赤司家御用達)のスーツとともに――。
その、百獣の王様然として威厳に満ち満ちたオーラやらをすっかり脱ぎ去って、すっかりガードが緩んだ・・・360度、全方位に隙だらけな姿を目にすることができるのも・・・。
そんな彼を癒し、リフレッシュさせることができるのだって――全部全部自分にしかできないし、許されてもいない特別なことなのだと・・・・・・。
『さあ。そろそろ本気でいかせてもらうとしようか』
・・・だからせいぜい覚悟しなさい。いいね・・・? と。
さも機嫌よさげに“グルルルル...”と喉を鳴らしながら、組み敷いた黒子の耳たぶといわず喉元といわず・・・気持ちの赴くままカプカプ甘噛みしてじゃれかかっては、虎視眈々と次の手順を――小ぶりながらこれ以上ないほど旨そうに熟した唇を奪い、甘い蜜が詰まった口内を好き放題味わい尽くす絶好のタイミングを探る、美しきハンターの・・・欲に濡れて光るピジョンブラッドと視線が絡み合った瞬間。
『改めてほんとびっくりするくらい・・・この人ボクがいないとダメなんだな・・・』
うなじから頭のてっぺんへと、じわじわ這い上っていった・・・どこか面映ゆさもあり、ほんの僅か悪寒にも似た・・・なんとも言いようのない優越感と高揚感に背を押されるように。
さながら――花開く瞬間のユーチャリス(アマゾンリリー)みたく、みるみる破顔してみせた囚われの人の・・・。
「――嗚呼テツヤ、オレの美しい人」
赤司のもとに連れ戻されるや・・・・・・もう二度と逃げ出さぬようにと足枷をつけられ、籠に閉じ込められ、自由を奪われ。それでもなお。
否、そうまで求められたからこそかもしれないが。
その――年齢を重ねるにつれ身に着いた艶と、それに逆行するような・・・少年めいた容姿が絶妙に入り混じる美貌に、ますますもって磨きがかかったのではと思えるほどの・・・。
かくも可憐かつ、気品あふれる微笑みに魅入られつつも。
・・・と同時に。今まさに綻んだばかりの――朝日を浴びて眩く輝く純白を、募る欲に任せ手折り汚す背徳の香りに、捕食者ならではの嗜虐心(ほんのう)を甘く疼かせながら。
頼りになる仲間たちからプレゼントされた、かくもありがたき誕生日休暇を・・・。
一年半分の飢えを満たす、テツヤ充でもってめいっぱい英気を養ったなら。
誰にも何事にも邪魔されない(クリスマスケーキでおなじみの)・・・メレンゲドールみたいに甘ったるくて濃密な・・・二人ぼっちの年末年始休暇を過ごすべく。
――師走の声を聞くや、また一段と苛烈さの増したスケジューリングと(とはいえ、秘書たちの憂いや進言の声にも耳を貸さず・・・ひたすら仕事に没頭することで、パートナー不在の喪失感を無理やり紛らわせていたのはほかならぬ赤司自身なため、ただの自業自得と言えなくもないのだが)・・・。
それに伴い膨大な量に――それこそ。
赤司征十郎ほどの男でなくては太刀打ちできぬほど膨れ上がったタスクをすべからく、きれいさっぱり片づけたなら。
この決して誰も足を踏み入れることの許されぬ、終の棲家に籠ってひたすら――いくら抱いて愛しても決して飽きることのない最愛の人に・・・昼も夜もなくどっぷり溺れ尽くしてやると固く心に誓う。
・・・そして。
ほかでもない“彼”がそう心に決めたからには――。
「ちょっと征ちゃん・・・いえ社長ってば、いよいよ正解征服でもしちゃうつもり?!」
「おい、いい加減にしろ。・・・別に世界征服でもなんでも好きにすりゃーいいが、これ以上オレらの仕事増やしてくれるなよ?」
「お前さんと違ってこっちはただの人間なんだ、限度ってもんがある」
テツヤちゃんが戻って嬉しくてしょうがないのもわかるし、だからこそ二人きりの時間を一分一秒でも無駄にしたくないっていう、その気持ちもとってもよくわかるし。
ひいてはそれが…回り回って仕事に対していい影響を及ぼすのも、とっても。とーってもいいことだと思うわよ?
それになにより! 社長に笑顔(感情が)戻ったってことがほっっんとに嬉しいの!
・・・でもね?
だからってこうも一気にバージョンアップしなくても・・・っていうか。
当の征ちゃんはそれで良くても、周りの私たちが着いてけないの~! 一気に進化しすぎなの! もうちょっと加減してー!!
『ほんとうちの社長(征ちゃん)ってば、仕方がないんだから~・・・』・・・とかなんとかいう、側近連中らによる苦笑交じりの猛(?)抗議にさらされてみたり。
さらには秘書連中から愚痴を聞かされた黒子からも、ペース配分も大事(いくら君がタフだと言っても、無茶が過ぎればその内身体を壊す)とやんわり窘められたりなぞしながらも。
世間一般から“仕事納めの日”として広く認知されている・・・28日の午前中には予定されていたすべてを消化し終えると。
急遽大幅な変更が必要になったスケジュール調整に奔走させられ・・・た日々からやっと解放されたことにホッと一息つきながら・・・応接セットのソファーに這う這うの体でやってきて、疲労困憊の身体をどかり預け、天を仰いで放心する秘書たちを尻目に――。
今年もよく頑張ってくれたとか、また来年もよろしくとか、よい年を迎えてくれとか、
自分で勝手に下でタクシーでも拾って帰ることにするから、後のことは心配しなくていいだとか・・・・・・。
鼻歌でも飛び出しかねない勢いで、ねぎらいの言葉を口にしながら瞬く間に帰り支度を整えて終えるたらば。
社長室を扉を閉める最後の最後にぴょこんと・・・愛嬌たっぷりの表情を浮かべつつ振り返り。
「当然承知の上だとは思うが、あえて――お前たちの両名がそろって、これはよっぽどのことだと・・・どうしてもオレの判断が必要だと思われる場合以外での連絡等は、一切禁じるこことするからそのつもりで頼んだよ?」と念押しして。
「はいはーい。テツヤちゃんとのイチャラブはぜーったい、何が何でも邪魔したりなんてしないから(後が怖すぎるから)安心してちょうだ~い」
「そういう社長こそ、『テツヤがストバスしたいって言いだした・・・から、今からつき合え』とかいう(過去に三度ほど休日に呼び出された実績あり)、職権乱用(いやがらせ)はなしで頼む」などと嘆息交じりに訴えながら、力なく手を振り厄介払・・・もとい、送り出してくれる二人を残し――。
『・・・そういえばゆうべ寝入りばなにテツヤが、「そろそろマジバ(のバニラシェイク)が恋しくなってきました」とか言ってたな、確か』
・・・寿司やうなぎなんかよりこっちの方があの子はよっぽど喜ぶし、まあたまにならいいかな? ――となると、だ。最寄りのマジバは・・・? なんて思案を巡らせつつ。
愛しい愛しい伴侶が待つ新居を目指し意気揚々と・・・長期休暇を目前に控え、どことなくそわそわ浮足立った雰囲気に包まれる本社ビルを、一足先に後にするカリスマ社長様であった。
─了─
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