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第1話-1
両親と過ごした記憶は、もう無いのだという。
悲しいことだが、彼にとってはその方がいいのかもしれない。
清潔なベッドの上で包帯まみれになっている彼は苦しそうに眠っていた。なかなか目覚めないため、今は点滴が彼の主食である。
治療のために坊主にされているが確かに赤毛、深い緑の瞳と胸まである大量のそばかす。体つきは貧相で、骨と皮しか無いように見える。よくこの体で1年にもおよぶ実験に耐えられたものだ。
15歳のマシューはこの病室に足繁く、ほぼ毎日通っていた。
何もできることはない。1年前もそうだった。マシューは、何の役にも立たない自分を責めていた。
兄や姉のように学校で優等生にはなれなかった。学校にも馴染めず辞めてしまい、今は自分なりに鍛錬を積んではいるがこれが正しいのかどうかは分からない。たまに帰ってくる父親には毎回怒鳴られるか、嫌味を言われる。反論すると水やコーヒーをかけられる。
『センセ』
『てんしさま』
彼はマシューを、そう呼んで慕ってくれた。天使様はよしてほしかったが、彼があまりにも嬉しそうだったので何も言えなかった。
幼く天真爛漫な彼が心の拠り所となるのに時間は掛からなかった。
だが彼は1年前に失踪。
先日とある事件により発見され、保護された。
こんな、死んでいるのか生きているのか分からない状態で。
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