2 / 8

第1話-2

「……おれのことが分かるか?」 目が覚めたと連絡があり急いで来院すると、暴れたのかベッドの上でぐったりする彼の姿があった。前来た時よりだんだん怪我も治ってきている。 彼はマシューのほうを見ると5分ほど考え、せんせ、とかすれた小さな声で答えた。マシューは嬉しくなった。 「うん、センセだよ。お前のセンセだ」 思わず彼の頬に触れると、彼は泣き出してしまった。慌ててティッシュで涙と鼻水を拭ってやる。せんせ、せんせ、とマシューに縋るように何度も呟き、彼はこう言った。 「おかお、ちかく、みせて、せんせ」 マシューは衝撃を受けた。彼は目の前がほとんど見えていなかったのだ。顔がはっきり見える距離まで近寄ると、もう鼻と鼻が触れてしまいそうだった。……深い緑の瞳は、確かに彼のものだ。それに、よくよく話を聞いていると耳も不自由になっていた。マシュー以外の声や音がはっきり聞き取れないらしい。 「せんせ、俺ねぇ、」 うんうん、と話を聞くがどうも要領を得ない話しが多い。現実の話をしているようには到底思えなかった。記憶の錯乱が起きていた。 目や耳の機能は低下し、過度のストレスから食事の味も感じ取れない。全身傷まみれのぐちゃぐちゃ。そのうえ、外的要因によって強制的に魔法使いにされていた。 彼は人並みの感情を有したまま、魔法使いにされてしまった。 マシューは生まれて初めて、心が苦しくなった。今までこんな気持ちになったことがなかった。彼を助けたい、もうこれ以上辛い思いをさせたく無い。 守らなければ、排除しなければ、彼を取り巻く全ての障害を。 力をつけなければいけない。 その日から、マシューは変わった。無意識に、変わらざるを得なかった。

ともだちにシェアしよう!