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第3話-1

結果、移植は無事成功した。マシューの魔力はチャーリーに合っていたらしい。 高熱に苦しむチャーリーの隣で、マシューは今後の事を考えていた。 元気になったらまず、この世界のことを教えておかなければ。人と魔法使いとは考え方や価値観がまるで違う。この優しい子が順応できるよう、取り計う必要がある。 それと、簡単な魔法を教えてやれないだろうか。以前の検査で彼の自然治癒能力が著しく高くなっていることは把握している。ただ、この子の意思で魔法が使えるのかは分からない。魔力の道があるからといって、みんなが皆んな魔法使いになれるわけでは無いから。 「センセ」 はっとして顔を上げるとチャーリーが目の前に佇んでいた。靴もはかずに、自分の足で。 高熱で意識が朦朧としているのか、どこか視点が定まらず涙目だ。マシューは慌てて彼を支えた。 「どうしたんだ。ベッドから抜け出してきたのか」 「センセ、いなかったから……こわかったの……」 あつい、と項垂れる彼を抱え上げて病室に戻る。マシューは何か飲み物を買いに行った帰りだったが、看病疲れのためか廊下で考え込んでしまっていたらしい。ベッドに彼を下すがシャツを離してくれない。おいてかないで、と彼は泣きながら虚に呟いた。 「置いていかないよ。大丈夫だからね」 「こわいよ」 「平気だよ」 たくさん抱きしめてあげなさい、彼は淋しがりやだから。 母の言葉が脳裏に浮かぶ。 マシューは彼を包むように抱きしめた。すると彼も縋るように背に腕を回してくる。庇護欲とも支配欲ともいえない感情が、マシューの中で湧き上がった。 しばらく経つとチャーリーは熱で気を失い、腕を解いた。体が辛すぎると眠れず気を失うまで耐えるしか無いため、チャーリーは寝不足だった。早く熱が下がらないものか。 改めて飲み物を買いに行く。自分は水を、チャーリーにはグレープジュースを買い、病室に戻る。戻るとさきほど座っていた場所に母がいた。 「飲み物買ってきたの?」 「うん。いつの間に来たの?」 「今。成功して良かったわね。苦しそう」 「……本当に良かったって思ってる?」 母の顔を覗くと、ふふふ、と怪しげな微笑みを浮かべた。それからチャーリーの涙を拭い、これから彼には幸せになってもらうのよ、と確かに言った。マシューはその言葉に違和感を覚えた。母は子供や動物が好きだ。好きなのだが、彼女のそれは世間一般の親が向ける愛情や献身とはまた違う気がする。だがどう違うのかはマシューには分からなかった。 「迎え入れる準備はしてくれてるの?」 「もちろん。ちゃんと部屋も用意したわよ。だけどこの子、1人で眠れるの?」 「多分無理だから、おれのベッドをチャーリーの部屋に置いて欲しい」 「……ねぇ、看病代わろうか?酷い顔してるわよ。家で休んで来なさ」 「いやだ!絶対にいや!」 「マシュー、言うことを聞いて」 「だって、この子にはおれがいないとダメなんだよ!?泣いてしまうんだよ……?」 「なら、家に帰らなくて良いから病院のソファで横になってきなさい。何かあったら呼んであげるから」 「……うん……」 手術が終わって1週間で2人とも苦しみ、限界が来ていることは一目瞭然だった。チャーリーはもちろん、看病しているマシューもかなりやつれていた。「あなたのお手伝いさんなんだからあなたがしっかり面倒見なさい」母の言葉を律儀に守った結果だった。 マシューは渋々待合室に移動して、ソファに寝転がり力を抜くとすぐに睡魔が襲ってきた。

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