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第2話-2
彼の体はみるみる回復していった。耳は依然不自由なままだったが、充分な栄養と食事、リハビリを重ねて体力と視力は生活に困らない程度に回復した。車椅子は取れない状態だが、リハビリが上手くいけば走れることはないにしろ歩けるようにはなるようだ。
最後のかすり傷が治った時点で3ヶ月が経過していたが、彼は書類上は完治した。その1ヶ月後、魔力を移植することが決まった。移植し、もし適応できたらそこからまた検査と回復で2週間ほど入院になる。
移植が行われるまで1ヶ月、マシューは彼を家に連れて帰った。兄と姉、そして母にはじめましての挨拶をした。兄は彼のことを気に入り仲良くなったが、姉は気に入らなかったためあまり口を聞くことはなかった。
マシューと彼は必ず一緒に食事を摂った。マシューや家族の食欲に初めは驚いたが、3日もすれば慣れてしまった。彼は好き嫌いなく何でも食べるので、母が喜んだ。
マシューはそうだ、と思い立った。
「名前を決めよう」
「なまえ?」
「うん。お前の名前だ。そろそろ名前がないと不便だろう」
「そうだね」
「好きな名前にして良いよ。何が良い?」
「お、俺ね。センセにきめてほしいな!」
「おれが?……考えておくよ」
ありがとう、楽しみにしてるね。彼は満面の笑みで言った。
1ヶ月間、マシューと彼は毎日一緒に眠った。彼は入院時と違い、夜眠れるようになった。
そしてあっという間に移植の日になった。彼には失敗した時どうなるかは教えていない。
この1ヶ月、なるべく彼にご飯を食べさせ一緒に遊んで運動してきたが、それでもまだ細い。大丈夫だろうか……。
「ねぇ、名前なんだけど」
「うん。考えてくれたの?」
「チャーリーっていうのはどうかな?」
「良いんじゃないかな」
手術室に入る数時間前、彼に名前を提案すると抵抗なく受け入れてくれた。彼はチャーリーになった。もっと名前呼んで、と彼……チャーリーがお願いしてきたので、マシューは喜んで呼んだ。
「チャーリー、水飲むか?」
「チャーリー、トイレは平気か?」
「チャーリー、絵本読んであげようか?」
「チャーリー、」「チャーリー、」
「センセ、まって。な、なんだか恥ずかしい……」
「なぜだ?慣れた方が良いだろう」
「じゃ……すきによんで……」
顔を赤らめ、チャーリーは頬を膨らませた。マシューは堪らなくなって、その頬を両手でゆっくり潰した。
今日の予定は、まずマシューから魔力を取り出し、それからチャーリーに移す。大量の魔力を一度に取り出すため、マシューも麻酔を打つ必要があった。しばらくはそばにいてあげられないけど、大丈夫かい?うん、大丈夫だよ。俺もすぐ眠っちゃうみたいだから。
これから1時間以内にチャーリーの生死が決まる。マシューは不安を表情に出すまいと必死だった。彼に不安を与えてはいけない。しかし不安が伝わっていたらしく、怖いの?大丈夫だよ?とチャーリーはマシューの手を握った。
名前が呼ばれて、時が来た。
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