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小悪魔美少女との別れ、小悪魔王子との出会い
人の心は日々変わりゆくものだ。
「あの、椿さん。やっぱり俺、椿さんのことが好きです。付き合ってください」
高校一年生の初夏、誰もいない放課後の静かな校舎。予め屋上へと繋がる階段の踊り場に呼び出しては今世紀最大の勇気を絞って彼女に告白をした。
入学当初から学年一と噂され、親衛隊なるものまで設立されているという椿理友菜 に告白するには絶好の環境下だった。
長く緩く巻かれた純粋な黒髪に、人形のように大きくクリっとした瞳。男たちは、誰もがあの瞳の眼中に自分が入ることを望み、告白を挑んだものは数知れない。
そして、たった今彼女が捕えているのは、紛れもなく俺だ。
無謀だと分かっていても、吉岡千晃 はこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。
入学早々の体育祭の委員会で隣のクラスの彼女と一緒になり、彼女の愛らしい姿を至近距離で眺めているうちに、意図も簡単に落ちてしまった。
美少女だと陰ながら憧憬されている一方で、生粋の小悪魔だと噂されている。どきどきを誘うようなボディタッチ。仲良くなったあかつきには毎日のように返してくれるメッセージのやりとり。期待させるような言葉。
椿からのアプローチにすべて経験済であった千晃は、自分は確実に彼女の恋愛対象になっているのだと信じて疑わなかった。向かい合った彼女は、一瞬だけ天井を仰ぐと、両手指を腹部の前に組んで柔らかく微笑んできた。一定のリズムを刻んで揺れる体。それすらも可愛いと思ってしまう。
「ありがとう。千晃くんだよね?君には悪いけど……。君を恋愛対象としてみたこと、一度もないんだ」
柔らかい彼女の笑顔に油断した矢先だった。
「―――今までありがとう」
状況の整理ができていないうちに、そう言葉を残して階下へと繋がる階段を下りていく。
その後ろ姿が憎らしいほど綺麗で、階段を一段ずつ下りていく度に揺れる黒髪を今すぐにでも追いかけたくなる程だった
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