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しかし、彼女に近づける権利はもうなくなった。高校に入学して初めて実った恋のつぼみは、残酷なほどに期待を膨らむだけ膨らませて、萎んでいってしまった。
「あぁ。振られちゃったかー」
失恋の傷心に浸っていると、頭上から声がして振り返る。千晃の告白現場の一部始終を傍観していたと主張するように、上階へと繋がる階段の途中から手摺に身を乗り出して、ひとりの
男が此方を覗いてきていた。
千晃はこの男を知っている。同じクラスの桜田優作 という男で、入学当初からあまり学校には来ていない。
肩まである黒髪をハーフアップにして、ワイシャツの釦は第二まで開いている。妙な色気を醸し出し、顔立ちも、どこかの俳優かのように整っていて、可もなく不可もなくの自分の顔とはお門違いの男だ。
クラスメイトの粗方とは話したことがある千晃でもこの男とは一切ない。そもそも学校へ来ていることの方が少ないのだから当然ではあるが、千晃は以前から謎の多いこの男に興味を抱いていた。
「椿かあー。アイツはやめといたほうがいいよ。そう簡単には落ちないから。……っていうか、もう遅いか」
初めて男が喋っている姿を見て、驚きを隠せなかった。
普段見かけても、一匹狼でクラスメイトと話しているところなどみたことがないのだから……。
そんな彼が、今目の前で自分に話し掛けてきている。
「あんた面食いなんだね。椿のことが好きなのは意外だったけど」
勝手に千晃の中で抱いていた寡黙という彼へのイメージが崩されていく。その軽快に動く口元に目線を奪われ、千晃は先ほどの消失感など忘れて、目の前の男に興味津々だった。口をぽかんと開けて呆然としている姿が、余程アホ面だったのか、目の前の男の肩が上下に揺れ動き出す。
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