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「優?」
優作の異変に気付いて振り返ると、先ほど踊り場に佇んでいたはずの青年が、此方の様子を伺ってきていた。
椿に告白していたときには、見えなかった顔が今ははっきりと分かり、千晃たちを捉えている。小柄で何処か垢抜けない。犬種で例えると柴犬と言ったところだろうか。優作の笑い声が不快に感じたのか、此処まで覗きに来たようだった。
心なしか、鋭く睨んでいるようで、数秒だけ冷たい眼差しを向けられると、すぐさま逃げるように階段を下りて行ってしまった。
「ほら、優のせいで睨まれたじゃん」
「あぁ」
青年に気づかれてしまう程の笑い声をあげた優作に嫌味のつもりでそう呟いたが、本人はどこか上の空で一点を見つめながらぼんやりとしていた。今の一瞬で魂ごと青年に持っていかれたように動かない優作。
確信はないが、何となく勘付いてしまった。
「優、もしかして今の子に一目惚れした?」
千晃がそう問いかけた瞬間に優作の耳朶から首筋にかけて、徐々に赤み帯びていく。どうやら千晃の憶測は正しかったらしい。図星を突かれた優作は、膝に顔を伏せてしまった。
ここ二年のうちで初めての出来事だった。いつも冷静沈着な優作が照れている。その姿がいつもよりも小さく見えて可愛いとすら思えてしまう。
「図星かー。レアだ。優が照れているなんて」
そんな彼の旋毛を眺めながら、千晃は無性に頭を撫でたくなり、右手を伸ばしていた。艶のある細い髪を指で梳きあげて、荒っぽく撫でてみると、その頭が急に持ち上がったかと思えば、手の甲で千晃の手を払い除けてきた。
「うるさい。悪いかよ……」
「悪くないよ。そっかー。あの椿に落ちない優にも遂に春が来たかー」
照れ隠しをしている優作の姿を見て自然と頬が緩む。一方で内心では、モヤモヤして苦しいような得も言えぬ感情を抱いていた。
ただ、友達が恋をした。
それだけのこと。
おめでたくて喜ばしいことなのに……。
腑に落ちないようなこの感覚は何なのだろうか。
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