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しかし、月日を重ね、彼の傍に居る度に、優作にちょっかいを出して楽しそうにしている彼女を多く目の当たりにするようになる。それは恋する乙女そのもので、彼の発言に否定ができなくなっていった。優作を前にすると瞳をキラキラと輝かせて、積極的に話し掛けている。 察しの良い優作は、前々から気づいていたという。勿論、そのことに気づいた千晃も、最初は複雑な感情でいたが、優作と共に過ごしているうちに椿への想いは薄れていったし、振られた時点で吹っ切れていた。  そんな誰もが羨む椿に一方的な片想いを寄せられているにもかかわらず、全く彼女に興味を示さないのは根本的な理由があるからだった。 「好かれても嬉しくないよ。あいつと付き合うくらいなら……。お前の方がいい……」  途端に優作は、含みのある笑みを浮かべると、手摺壁から体を離し、屈んでいる千晃と同じ目線になってきた。 左頬に優作の掌が触れてくるとあと数センチ顔を近づければ、桃色に色付いた艶のある彼の唇に届きそうなくらいの至近距離まで接近されて動揺した。  優作の真剣で色気のある表情に流されるように、触れた手の感触から心拍数が上がる。 優しく千晃に微笑んでくると、ゆっくり近づいてきたかと思えば、耳元に息を吹きかけられた。 「ひゃ……」 千晃は思わず両手で左耳を抑える。変な気を起こしそうなくらい、徐々に耳朶が熱を持ち始め、変な声を上げてしまった自分に恥ずかしくなる。そんな千晃の反応が面白かったのか、優しい微笑みから悪戯な笑みに変わった。 「なーんて。うっそー」 こんなの優作が本気ではないのは分かっていた。顔色一つ変えずに、慣れたようにさらっと本当のような冗談を言ってくる彼の言動に戸惑いながらも、ドキドキしてしまう。だからと言って、彼に恋愛感情を抱いているわけではない。 「冗談はやめてよ。優が真顔で言うと本気みたいで怖いから」  千晃は、動揺してしまったことを誤魔化そうと優作の肩を押して少し距離をとる。すると彼は腹部を抱えて大笑いをしながら、踏板に腰を落とし、足をじたばたさせた。 「俺も、お前と付き合うとかないわ。でも、女はもっと論外」  彼がそう発言することから、彼は異性を恋愛対象として見ていない。恋愛感 情を抱くのは決まって同性である。    男なら誰でもいいという訳ではないらしく、彼にも好みがあるらしい。千晃のような平々凡々な身なりではなくて、愛でたくなるような愛嬌のある顔が好みだと何気ない会話で話していた気がする。 だから、優作との関係でそれ以上のものはなく、唯の友人なだけ。その友人関係も千晃が思っているだけで怪しいところではあるが……。 「優の馬鹿。そんなに声出したら流石に気づかれちゃうって」 「気づかれたとしても俺には関係な……」  あまりにも大声で笑うものだから、優作のワイシャツの裾を掴んで、体を揺らしたが、彼の目線に何かが映ったのか、途端に笑い声が止むと石化されたようにピタリと固まった。

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