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「優は詮索されるのを嫌がるから俺は執拗に聞くことはしないの」 「ほんと、よっしーと桜田君って不思議だよなー……。あ、ほらほら。飯田っち見てよ、モモたんのソロのターンだぞ」  普段の会話もしながら、ちゃんと推しの動画に集中している辻本は器用なのか、それとも話を聞き流しているだけなのか……。 「分かったから」と半ば鬱陶しそうな表情の飯田の肩を叩いて興奮した様子をみせると、辻本の意識は完全に動画の方へと向いてしまった。  そんな二人を眺め、千晃は教室の出入口を気にしていると、教室の後方から肩まである髪の毛をハーフアップにした噂の男が入ってきた。   男は教室に入るなり、真っ先に廊下側から三つ目の最後尾の座席に座る。朝から人のいなかった千晃の左隣が漸く埋められた。 千晃は飯田の「噂をしたら桜田じゃん」の呟きに生返事をすると、自然と優作の座席の方へと足が向かっていた。別に飯田と辻本といい加減に付き合っているわけではないが、優作を見る事が出来た日は、道端でタヌキと遭遇できた時のような特別な気分になる。 「優、おはよ」 「ん……」  優作の右隣の自席に着いては、スマホを弄っている彼に話し掛ける。千晃が声を掛けたにも拘らず、一切こちらに目線を向けることなく、頷くだけ。挨拶したのに返してこないなんて、不愛想もいいところだが、最初こそはその優作の塩対応にしつこく突っかかっていたものの、何回か彼の相手をしているうちに諦めがついて気にすることはなくなった。  これが彼の通常運転だ。 千晃は背もたれを脇に抱えて、そんな彼の横顔を眺めていた。顎のラインがくっきりとした端正な顔立ちに、男前というよりは中性的に近い。 正統派な(おとこ)というような男子より、綺麗目系の顔立ちが異性の目を惹くこのご時世で椿が落ちるのも納得する見た目に、千晃ですら見惚れてしまうほどだった。

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