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そんな優作が、一週間ほど前に下級生に恋をした。それ以来、彼の動向を気にしてはいたが、千晃の思い違いだったのかと錯覚するほど、今のところ浮ついた様子はなかった。
「優、昼は?」
「まだ。よしおかあー。食堂行きたい」
優作は、千晃が何気なく問いかけたことに対して、ニッと口角をあげると、甘えた声でそう提案してきた。
誰かに甘えることに慣れているのだろうか。この優作の表情と声音には毎回、胸がキュッとさせられる。特に断る理由もなく返事をすると、優作は即座に座席から立ち上がっては教室を出て行ってしまった。
千晃も慌てて鞄から財布を取り出すと彼の後を追う。昼食は
持参してきたお弁当で飯田と辻本と共に既に済ませていたものの、優作に誘われたらとりあえず着いていく。
食堂に着いて食券機の前に並ぶなり、優作は「いつものよろしく」とだけ千晃に告げてくると、飲食スペースのテーブル椅子にそそくさと座ってしまった。完全にパシリ感が否めないが、これもいつもの事なので、溜息は吐きたくなるものの気にするだけ無駄だ。
それに、日頃塩対応の彼に笑顔でお願いされると強くは断れない。
凡人の自分と違い、見た目も性格も文句なしの王様気質に頭を抱えたくなるが、嫌々付き合っているわけではないし、仕方がないかと受け流せる程度のことだった。
千晃は券売機でカツカレーの食券を購入すると配膳の列に並び、毎回優作の為に通っていたら仲良くなった食堂のおばちゃんと世間話をしてカレーが運ばれてくるまでの時間を潰していた。話の区切りがついたところで、お目当てのものがトレイの上に置かれ、そのまま慎重な足取りで優作の元まで届ける。
平々凡々でも年齢問わず誰とでも仲良くできる千晃に対して、辻本が不思議がっていたように優作は誰にも寄り付かない一匹狼タイプだ。校内では優作と一番近しい存在で居られていることに少しだけ、優越感みたいなものはあった。
正直なところ、優作が千晃のことを友達と思っているかは、本人しか知らないところだし、しつこく纏わりついてくるハエのような、金魚の糞のような存在にしか思っていないのかもしれないけど……。
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