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「飯代、いくらだっけ?」  自分の抱いてしまった感情に自己嫌悪に陥っていると向かいの優作が問うてくる。彼にしては、これまた珍しい発言に、千晃は思わず「えっ…」と声を出して顔を上げた。 優作は少しだけ腰を浮かせて、ズボンの尻ポケットから黒革の長財布を取り出すと、右手首を掴んできたかと思えば小銭を握らされた。手のひらを徐に開いて、中身を確認すると五百円玉硬貨が乗せられている。  御礼と同時に、今の今まで御飯代を律儀に渡してくることはなかったのにと疑心暗鬼になった。 一体どういう風の吹き回しなのだろう。 「これくらいで足りる?」  驚きで言葉を失っていると、優作は小首を傾げて問てくる。 「足りるも何も多いくらいだけど……」 「あーそう。なら、いいよ。まんまやるよ。いつも奢って貰ってるし」  単なる優作の気まぐれか、それとも本当にお詫びのつもりで渡してきているのか。 今までの彼の行動からでは後者の考えは確率的に低い。であれば、前者の気まぐれの線しかないが、優作のことであるから何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。 「優。もしかして、カレーになんか変なものでも入ってた?」 「はぁ⁉っんなわけあるかよ。そんなこと言ったらお前の恋人の学食のおばさんに失礼だろ」 「確かにそうだけど……っておばさんは恋人でもなんでもないから」  気さくで優しい学食のおばさんに限って、そんなことはあり得ないし、あったとしたら大問題だ。軽い冗談のつもりで言ってみただけなのに、思わぬ変化球を食らった。 「いつも楽しそうに話してんじゃん?」 「世間話だよ。なんでそうなるかな。というか、そうやって揶揄っている優こそ。どっちが失礼って話だよ」  必死におばさんとの関係を否定し、ムキになった千晃が面白かったのか、優作は口元を左手で抑えると控えめに声を出して笑っていた。  彼の笑いの壺になっていることに不貞腐れながらも、優作からもらった五百円玉がどこか特別な感じがして、胸元の生徒手帳に忍ばせる。皮肉り合っていても優作が自分の前で笑ってくれているのは心地いい。 特に深い意味はないのに、こんなに喜々としてしまうのは何故だろう……。

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