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綺麗に巻かれた髪を揺らしながら忍び足で椿が優作に近づいてきている。静かに、着実に近づいてくる椿と目が合うと、黙っていてと言わんばかりに、人差し指を口元に当てて黙認を促してきているが、優作には既に気配で勘付かれているのであろう。 嫌いなものほどよく目につくし、警戒心は強くなると、よく言ったものだ。 「わあー‼優作くん、ここにいたんだあー」  椿は優作を驚かすように彼の両肩に手を置くと、上半身ごと背中に伸し掛かっていた。彼女の重みで前のめりになった優作は、眉間に皺を寄せて心底嫌そうな表情をしている。  椿を羨んでいる男どもからすると、彼女の胸は確実に背中に当たっているし、鼻の下は伸び放題、どんなに夢のような光景だろうかと思う。 「っち。うざいのが来た」 「うざいって酷いなぁー。そんなこと言って、理友菜のこと待ってたんでしょ?」  椿を毛嫌いしている彼は、相変わらずの塩対応であるが、そんな椿もめげずに何度も彼に挑むのだから相当な鋼のメンタルの持ち主である。 むしろ、冷たくあしらわれているのに、星でも散りばめたように目を輝かせて、この状況を楽しんでいるようにも見える。千晃のことなど端から眼中にもなく、彼に伸し掛かるのを止めると、左隣の椅子に背もたれを脇に抱えて座った。優作だけを捉えて離さない瞳に可愛らしく振る舞うことによって彼の気を引こうと必死だ。 「ねえ、優作くん。今日こそは連絡先を交換しようよ?」 右手には赤い頭巾を被った兎のキャラクターが目につくピンク色に、キラキラとスワロフスキーを散りばめてあるケースのスマホを握りながら、もう片方の手は優作の膝の上に置かれる。 当の本人は、僅かにピクリと眉が動いたものの、椿を空気扱いしているのではないかと思うほどに見向きも返事もしない。   表情は険しくなる一方で、いよいよ我慢の限界だったのか、目の前で椿の手が弾かれる音がした。 「きゃっ」 「膝、やめてくんない?不愉快だから」 「ごめん……」 彼女は驚いたように可愛らしい声を上げると、弾かれた手を自分の胸元へと持ってきて摩っては酷く落ち込んでいるようだった。 優作の今の行動は、きっと何人もの椿に想いを寄せる男を敵に回しただろう。現に、周りを見渡すと先程から椿を遠目で見ていた男達がざわつきだした。 中には怒って飛び出しそうになるところを友人と思しき男に止められている男もいる。 そんな男たちから注目を向けられていると知ってか知らずしてか、椿は椅子を座り直したかと思えば千晃の元に手の甲を向けて右手を差し出してきた。

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