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「いたぁ。ねえ、吉岡くん、撫でてくれる?」  意中の奴の前で、他の男に強請ってくる椿は正真正銘の小悪魔だ。甘えた瞳に彼女の細い手。そして、男をその気にさせる行動。二年前の自分だったら、この甘えて頼ってくる彼女に負けて、言われるがままに撫でていただろう。 「ごめん。優も悪気はないからさ」  しかし、振られた女の手を優しく撫でてやるほど、今の自分は純粋な心を持っていない。千晃は、彼女の手には一切触れずに優作の代わりに謝ることで、この状況を回避した。   まあ……。優作本人は悪気しかないと思うけど……。 「そっかー。あ、もしかして照れ隠ししてるんでしょ?もう優作くんったら」  千晃の気遣いも虚しく、めげずに優作にちょっかいを出すどころか、肩を軽く叩いている。このままだったら手を払い除ける程度じゃ済まなくなりそうなほど、優作の表情が険しくなる一方だった。 「そうだ。吉岡くんに教えてもらえばいいじゃん。ねえ、優作くんの連絡先教えて?いつも一緒にいるから知ってるでしょ?」 そんな優作との温度差に全く気付いていないのか、はたまた敢えて気にしていないのかは分からないが、椿は思い付いたように千晃に問うてくる。 「椿さん。ごめんね。俺も優の連絡先は知らないんだ」 毎日学校に来るのかも分からずに待っている千晃が、椿に教えられる番号を知っている筈がない。知っていたとしても、本人の許可なく勝手に教えはしないだろう。 「えーなんだ。他に知ってそうな人いないの?」 「本人が教えてくれないからって他人から教えてもらうのは良くないんじゃないかな?」  千晃は苦笑しながら、優しく諭してやると彼女は酷く肩を落として再び優作の方へと向き直った。 二年も前のことだし忘れていても無理はないが、彼女と過ごした時間があった千晃ですら、先ほどの行動や態度から分かるように、彼女にとってその程度の存在だったのだと改めて痛感した。 そんなアリンコ以下の千晃の聞く耳など端から持つ気がないのか、椿はしぶとく優作に詰め寄る。鬱陶しそうに何度も溜息を吐く優作と、一向に引き下がらない椿との攻防戦が始まる。 これじゃあイタチごっこだと、千晃ですら手に負えない状況に半ば呆れながら二人の様子を眺めていると、一人の青年が千晃たちのテーブルに近づいてきた。

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