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「あ、あのっ」
頬を強張らせながらも優作の目の前に立ち、彼を見据えている。青年からは、決して友好的な雰囲気を感じられず、腿の横で握られている拳が震えていることから、憤りのようなものを感じた。
「謝ってください!」
大人しそうな青年からは想像のつかない声量に千晃だけではなく優作と椿も驚いていた。
「椿先輩に謝ってください!女性にこんなことするなんて失礼です」
一驚している優作に向かって再度、強めの口調で椿への謝罪を求めてくる青年。
先程の椿に対しての優作の冷たい態度をしっかり見られていたのだろう。青年に怒鳴られたことで状況を把握した優作は目を伏せてしまった。気になる想い人と嫌いな女に挟まれてしまったこの状況は彼にとっては不都合である。
青年は敵意剥き出しで優作のことを睨みつけ、隣の椿はその青年に期待したように見つめるだけで、助言をしてやらない。
完全に優作が悪者の不利な状況。彼が板挟みになって苦しんでいることは一目瞭然で、唇を噛んで顔を歪ませていた。
好きな人から求められた謝罪を応えることは、彼にとって苦痛で仕方がないはずだ。
この場を丸く収めるのであれば椿と青年の気持ちを考慮して、謝るべきかもしれないが、しつこい椿もどちらかが悪いとは言い切れない。そんな優作の顔など見ていられる訳もなく、千晃は椅子から立ち上がると青年に向かって深々と頭を下げた。
「ごめんね、優ってこういう奴だからさ。悪気はないんだ。俺が代わりに謝るから今回はこれで……」
「椿、ごめん」
今にも泣きそうな優作を想ってフォローに徹しようとしたが、向かいの席から優作が小さく呟くと、席を立ち上がり、それだけを言い残して食堂を出て行ってしまった。
青年はやり切ったような安堵の表情を浮かべて息を吐く。
一方で椿は、優作が自分に対して謝ったことが余程嬉しかったのか、「うそっ。優作くんが謝ってくれたあー」と歓喜の声をあげていた。
好きな人が自分の嫌いな奴の味方につかれるのは、優作には堪えたんじゃないだろうか。
仮にも相手は椿が好きな人間だったとしても、もう少し言い方とか、周りの配慮があっても良かった筈なのに……。
千晃は優作が置いて行ったトレイを片付けると二人を置いて、真っ先に彼の後を追う。
無言のまま、足早に先へと急ぐ優作に追いついたのは、教室のいつもの座席に着いてからだった。千晃が自席に座ったと同時に、彼は溜息まじりに嘆きながら、腕に突っ伏した。
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