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 「あいつのせいで、全部終わった」   顔を伏せられているので表情から感情を読み取ることはできないが、かなりショックを受けているのだろう。   優作の声音は弱々しかった。 「元気出してよ。まだ終わった訳じゃないって」 「絶対、あの子に嫌われた」 あからさまに落ち込んでいる彼を励ますように肩を叩いてみるが、内心ではホッとしている自分がいた。    それは友人の恋路を応援したい気持ちはある筈なのに、青年が優作に接触してきた時、自分の心が不穏に揺れたのを感じたからだ。向こうが優作に興味を抱いてしまえば自分は邪魔ものになる……。 善意と悪意が織り交ざり、心が追いついてこない。 「仕方ないなー。落ち込んでいる優に元気の出るお勧めの曲、貸してあげるよ」  そんな自分の中に潜んでいる忌々しい黒い部分に気づきたくなくて、鞄からお気に入りアイドルの音楽ディスクを取り出すとケースごと彼に渡した。目の前に出されたディスクの気配に気づいたのか、優作は顔を上げてジャケット写真を凝視する。 「いい。興味ないし」 「優。アイドルなめているけど、神曲多いんだからな。共感すること沢山あって救われることだって……」   興味を示さない彼を惹きつるために、熱心にアイドルの良さについて語っていると、優作は虚ろな目をしながらも気怠そうにディスクを受け取った。 自分の好きなものに少しでも興味を持ってもらえたのだと喜んでいた矢先に、彼は座席から立ち上がると、教室の後方のゴミ箱の前に立っては何かがゴトンッと落ちる音がした。 「あー女見てると余計に腹立つ」 「ちょ、ちょっと!優、今捨てた? 捨てたよね?」  今、ゴミ箱から聞こえた音の根源は紛れもなく千晃が渡したディスクだった。 千晃は慌ててゴミ箱に駆け寄ると、中身を漁る。紙ゴミに埋もれて沈んだディスクケースが顔を覗かせると、すぐさま取り出して、ほこりを払った。紙ゴミしかなかったことが幸いで、目立つ汚れが本体に付着していなくて安堵する。 「もう、勘弁してよ。俺の大事なものなんだから」 「やばっ。お前の必死な顔、面白すぎ」  余程、千晃の慌てた姿が面白かったのか、優作はお腹を抱えて笑っていた。目に涙まで浮かべて、少しは彼を元気づけることができただろうか。 普段、仏頂面の優作が目を細めて笑う姿は見とれるほどに美しくて、先ほどまで抱いていた黒い渦のような胸が突っかかった感情はどうでも良くなっていた。

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