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バスに乗ってしまえばあっという間に吉岡との時間が終わってしまう。 それが名残惜しくありながら、先陣を切って真横を通り過ぎた吉岡の背中を眺めていると、吉岡は昇降口には乗り込まずにバスを素通りし、道なりを歩き始めた。 吉岡に置いて行かれ、唖然としていると、途中で気配が遠くなることに気づいた吉岡が振り返ってきては、「ゆーう」と手招きをしてくる。 優作はバスの運転手が早く乗らないのかと急かすような目をしているのを振り切り、吉岡の元に駆け出した。 「おい、乗らないのか?」 「折角だから歩いて帰ろう?優が、まだ俺といたいような顔をしてたから」 「はぁ⁉お前こそ。俺の事、急に貶してくるし何なんだよ」 「お互い様じゃん。優だって俺のことオタクだって詰ってくんじゃん。ほんと優って素直じゃないよね。俺は素直に言うよ?優とまだ一緒に居たい気分だった」  斜め後ろを歩いていた優作に歩幅を合わせてきた吉岡が、急に手を握ってきたことにドキッとする。 突然のことに戸惑う暇もなく、吉岡の顔が徐々に近づいてきたかと思えば、軽く唇を触れ合わせてきた。不意の出来事に心拍数が上がる。 優作は今の一瞬で教室のキスの余韻を思い出しては居た堪れない気持ちになりながらも、手を引かれるままに足を進めた。 ――吉岡も今、ドキドキしているんだろうか。  何事もなかったように、澄ました顔をしているが、首筋から耳元に掛けて赤くなっているのが見てわかる。 「優、大事なこと忘れてた」 「何だよ」  吉岡と想いを通じ合わせることができた、それ以上に大切なことって何があるんだろうか。 「優、俺と付き合ってください」  手を繋がれたまま、深く頭を下げてくる。 大事なことと言われて、少し身構えていたが、初歩的なことで呆気にとられた。 「今更だろ」 「今更って……。こういうのはちゃんと段階踏まないとね?優は恋愛初心者だから」  告白よりも先にキスをした時点で段階も何もないはずだが、吉岡が嬉しそうに問うてくるので下手に突っかかる必要もなかった。正直、細かいことなんてどうでもいい。吉岡と今、こうして想いを通わせていることができているのだから。 「で、答えは?」 「いいにきまっているだろ」  口元を緩ませて、じっと返事を待っている彼にそう呟いてやる。 「やったー。あ、楓さんに報告しなきゃね」  吉岡は答えなんて既に分かっていたはずだが、右手を夜空に突き出して大いに喜んでいた。繋いだ手から伝わる温かい体温と吉岡を見て自然と笑みがこぼれる。  本気で好きになれた人が隣にいる。笑いかけてくる。それだけで、優作は幸せな気持ちでいっぱいだった。 END 

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