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第6話

「……え、」 「起きたかい」  浮遊感にもがけば、思いのほか近くから耳障りのいい声が掛けられる。 「風邪をひくよ」  どうやら窓辺で膝を抱えたままうたた寝をしていたらしい。冬季が呆然としている内に軽々と運ばれ、やわらかな布団に横たえられる。畳の上に敷かれたことすら気づかなかった。 「お誘いかな?」 「え」  冗談めかして問われ、伊純の襟首を掴んでいたらしく驚いて手を放す。 「君は身体は成熟しているかもしれないけれど、内面はとても幼いね」  冬季の目尻に指を寄せながら、彼はしみじみとつぶやく。 「……その子どもに手を出したのは誰だ」  カチンとして言い返せば、愉快そうに目を細められる。 「からかった訳ではないよ。これからじっくり口説いていくから」  見上げる先の深い色の瞳に吸い込まれそうだ。  いつか親身になってくれた人のように、母のように、誰も彼もが冬季を置いていなくなってしまうクセに。――叔父以外。いや、彼にも売られたのだった。 「そういうのは、いらない」  気づきそうになる、心に巣くう何かに冬季は蓋をする。耳をふさぎ、目を閉じ、心を閉じ、五感を遮断する。余計なことは考えられないように。刹那的な快感だけしか要らない。 「準備ができてから、お互いを知っていこうと思ったのだけれどね」  困惑気味に言い淀んだ伊純の首に縋る。 「いい。もう知らない。めちゃくちゃにして」  自分で言っている意味もよくわかっておらず、なおも続けようとする伊純の口を塞ぐ。セックス覚えたてのガキでもないのに無茶苦茶な口づけを繰り返す冬季に、溜め息のようなものを零した伊純はしかし応えてくれる。 「……ん、ふぁぁ」  誘っていたはずの冬季であったがすぐに主導権を奪われ、我が物顔に口腔内を荒らされる。歯列をなぞられ、甘く舌を噛まれて肩を振るわせる。  嫌悪しているはずの交わりも、結局は求めてしまう己の浅ましさ。 「かわいいね」  ベタベタになった口元に軽いキスをされて、徐々に首へと下がっていく。時折立てられる歯に連動して跳ねる顎。 「……ほし、伊純さ……欲しいぃ」  いつものように相手を脱がそうとするが、和服に思いのほかもたつく。むずがり溢れた唾液は滴って欲望赴くまま相手を請う。  同時に受けるキスは範囲を広げつつ隈無く施されて、襟首を寛げられ胸全体を揉まれる。合間に芯を持った屹立を膝で刺激され、大きく腰が震える。  肌の触れ合いが無理ならと裾から男の逸物を探りだそうとして、その手を絡められ阻止される。 「な、で……?」 「この前は触ってもらったから、今回はこちらがしよう」  微かな布の擦れる音と共に、軽く圧迫される両手首。煽情的に(はだ)けて覗いた腹筋から、彼の帯が使われたのを知らされる。たったひとつ、動かせないだけですべてが男に晒されているよう。  耳朶を食まれるようにして、低い声を吹き込まれる。 「いい格好だ」 「……あ、あぁ」  腕を括られ、胸元を乱し、裾を割られ。  改めて己の格好を顧みて、カッと肌に朱が差す。 「色づいて男を誘っている」  口角を舐め上げた真っ赤な舌から目を離せない。緋色の浴衣から伸びる白い肢体に歯を立てられ、走る痛みからそれが己のものであると気づく。 「は、……はっ!」  身動きとれず、息を荒くして動物のよう。 「あ、あぁ!」  下着越しに兆していた屹立を擦られ、ぬめった先端をほじるようにして爪を立てられる。湿った布地はさらに水分を含んで摩擦を生み、冬季の快感を増幅する。  もがけばもがくほど手首の拘束はきつくなり、浴衣の乱れはひどくなる。纏っているものをつないでいるのは、ほどけかかった頼りない帯のみ。 「いずみさ、……とって、これ、とってぇ」 「ん?」 「触りたい」  彼の身体を堪能したい。 「後でいっぱい触ってもらうよ。腫れているね」  希望はすげなく断られ、()かれた下着の中。後孔をつつかれる。  叔父の無茶な抜き差しによるものだろう。 「いい、いいから。ン……来て、入れて」  冬季の体調を(おもんばか)り、触りあいで終わりそうな予感に先手を打つ。アルコールに流されてしまった、やさしく求められる感触を思い出したい。 「つらかったら言うんだよ」  蠕動する穴を確認した伊純は、冬季の表情を見ながらゆっくり挿入する。 「あン、いい……イってぇ、中で出して」 「……くっ、」  感じ入って、全身総毛立つ。搾り取るように、猥雑に蠢く体内は制御できない。 「……あ、あ……ん、ぁン! いい、イイッ!」  耳元で低く呻く伊純の声も、快感のスパイス。媚びを売るような甘ったるい、聞くに堪えない声が迸る。もう少しで弾ける。 「……あ、あぁ……。な、でぇ……?」  絶頂に登り詰める直前、突然放り出される。  腰を動かして唆しても再開されない。不完全燃焼はつらすぎる。しゃくり上げながら疑問を紡ぎ、男に先を促す。身動きひとつで眼から落ちる滴。 「君が本当に欲しいのは誰だい?」 「あ、あぁ……ん、くぅ……い、ずみ、さん」  目の前の男。他にはいない。 「違うだろう」  身体を起こした伊純が、冬季の汗で張り付いた前髪を上げ覗き込む。 「考えてごらん」  やさしく頬を撫でられ官能を呼び起こされる。だが、イクにはほど遠い。 「わか、わかんな……ぁあっ!」  不意に胸の尖りを抓られ、しこった場所を押しつぶすように往復される。こんなに反応する場所ではないはずなのに。 「『そんな男の元に留まる必要はない』のに、(かたく)なに側にいるのはどうしてだい」  どこかで。  既視感を覚え、でも記憶から引き出せない。 「なぜ?」  重ねて問われ、酩酊状態の時だと遅れて気づく。どこからが夢で現実なのか判断つかない。 「……あン」  促すように爛れた内部を抉られ、それもすぐに止む。 「……ひ、ぃッ!」  考えようにも霧散する思考は固まらず、咎めるように耳朶を噛まれる。それも熾火となってジクジクと快感に変換される。 「ン……んぅぅ」  腹が波打ち、埋められている熱い拍動をしゃぶり扱く。次第に全身に広がっていくピクツキに、言い知れぬ多幸感を得る。強い視線でその様を観察されていたと気づき、反射的に身をすくめる。 「あ、あぁぁ……」  虎視眈々と狙う猛獣のように。  ちいさく怯える獲物のように。 「……ぁ、」  唐突に理解した冬季は声をもらす。  前回は(のが)してもらったのだ、と。 「やめ、やだぁ……ひ、ぃッ!」  ――そして、今回は捕われる。  伊純の双眸が細められた。 「……ッあー、アーっ! アーッ!」  巧みな腰使いに、言葉も忘れて身悶える。  シーツに立てた爪先は滑り、捩る腰は押さえ込まれる。  不随意に跳ねる身体の内部で快感が暴れる。 「イく、……ひぃ、ィちゃぁああ!」  上手く動かせない手で男と距離を取ろうとするが、むしろ胸元に縋りつき強請っている仕草であると思い当たらない。 「冬季」  再び止んだ律動に、生殺しにされる。無意識に内壁で熱い屹立を扱き、先を唆す。 「……ん、ぁ……だ、だって、ぃン、要らない、ってぇ……」  溢れる唾液に噎せながら。しびれる舌で拙い言葉を紡ぐ。散らかった思考をかき集める。  叔父の元に留まる理由を。 「一緒に、いてくれた……」  母という唯一の肉親にさえ捨てられ要らない子である自分を、見つけたのが叔父だった。父親は知らない。たとえ肉欲だとしても、金目当てだとしても、暴力を振るわれようとも。オンナに博打に酒に煙草に借金まみれの、世間ではどうしようもないクズだとしても。 「あのひと、だけ……居てもいい、理由をくれた」  やさしくされた覚えもないが、『冬季』という存在に気づいてくれたのが彼だった。そして社会から外れていようとも、存在する意義を与えてくれた。 「ふうん?」  吐き出した白濁を体内に馴染ませる動きでグチグチと粘った水音が響く。 「ぁ、ん、……あぁぁぁ、は、ン、ふぅぅ」  体内を攪拌していた逸物が抜かれ、冬季はほっと息をつく。だが、これで終わりではないだろうとも悟る。身体的にも精神的にも責められ、ぐったりしていると手首の拘束が外される。 「……ん」 「何かわかるかい」  目の前にツルリとした半透明の卵状の物体を差し出される。やはり碌でもない。 「アダルトグッズは、お好きではないのかと、思いましたが?」  力なく営業スマイルで返せば、眉間に皺を寄せられる。 「楽しむためのスパイスは多い方がいい。敬語じゃなくて、素のままの方が好みだね」  いじめ甲斐の間違いだろう。屈服させ蹂躙する。なんだかんだと言いながら、結局は他の男と同じだ。 「ぁ……ぅん!」  チュ、チュブ、グチュ。  ジェルで濡らされた卵型のオモチャが、ゆっくりと肉の輪を潜って押し込まれる。追って二つ目が先の物に当たり、振動を与えつつ奥を開拓する。無意識に動かす腕は、いつの間にか左右それぞれの手と足で括られて自由を阻まれる。 「ゃ、ぁあっ!」  続く衝撃に仰け反って後頭部を擦りつけ、見ようによってはまるで男に甘えているよう。 「ん。いい眺めだ」 「……え?」  背後から冬季を抱える体勢で何を、と問いかけようとしてギクリとする。  眼が、合った。伊純と。  そして緋色の浴衣を乱し、腫れた乳首を曝し、手と足を繋がれて大きく股を開き、白濁を溢しながら球体を局部に頬張る、欲に塗れた表情を曝す自らの姿。 「……ひぃッ! やだぁあ!」 「やっと気づいたかい。かわいいね」  一度は逸らした視線を、顎を掴まれて戻される。室内の布が掛けられていた物は姿見だった。手入れされた鏡は一部の漏れもなく、青くなって赤くなった冬季の頬が口づけを受ける様も映し出す。疲れ果てていた冬季はその存在を確認する余裕もなかった。 「ああ、準備もできたようだ」  にわかに騒がしくなった周囲に身を竦めると、伊純に着ている物を軽く正される。 「オレは知らねえ! はめられたってンだ!」  知っている、酒に焼けたダミ声を。  声もなく目を見開いた冬季とは対照的に、密着し見上げた先の伊純の横顔は大層機嫌が良さそうでゾッと寒気がする。  固唾を呑んでいる間に、叔父が二人の屈強な男と共に室内になだれ込んでくる。 「クソッ! ソレを売ったら、もうツケはねぇハズだ!」  ああ、やはり。  叔父が唾を飛ばしつつ喚くたびに、心が凍えていく。予想はしていたが、彼の口から直接聞き実感する。憐れだと、自らに流す涙もない。 「この野郎!」  ぐしゃっとした嫌な音とくぐもった声が同時に起こる。 「……も、もう、やめ――」  人の形を崩していく叔父を見ていられず、腰を浮かしかけるも強い腕の力に阻まれる。 「『居てもいい理由をくれた』だけ、ではないのだろう」  穏やかな声音を拾い、背後の伊純に意識を向ける。それは先ほどの続きか。今でなくていいはず。伊純と冬季の会話を知らぬとばかりに、目の前で制裁が寂々(じゃくじゃく)と進められていく。 「たかが血縁関係で、生活を共にしたとしても、そこまで縋る理由にはならない。君には彼から自立できる力がある。それをしないのは――」  その先は聞きたくない。予期して目を閉じゆるく首を振るが、耳を塞ぐ手は足と繋がれたまま。 「一人が怖いから」  言い切られる。 「親に置いて行かれた君は、新たに叔父である彼を得て縋ったんだ。血縁関係ならば一緒に居られる可能性が高くなる」 「ち、が」  漏らす声も、否定できるほど強くない。 「……すき、だから」  共に居たい。たとえ邪険にされても。  見向きもされないのは、はじめから知っている。叔父は豊満でやわらかな異性の身体に欲情する。冬季を抱くのは、ただの暇つぶしでしかない。道具としてしか認識されていなくても、たとえ振り向いてもらえなくとも。自分の存在を知ってくれた、その一点のみで彼を想い欲する。 「本心かい?」  器用に片眉を上げられる。 「佐々木は金を作るため君を求め、君は孤独を埋めるために叔父を求める」  口調は穏やかであるが、内容は鋭く冬季を切りつける。  気づかないよう隠していた淡い心を、土足で踏み荒らされる。 「それは恋心ではない。――依存だ」  隠していたものをこじ開け、曝かれる。 「でも、居る場所を作ってくれた。それだけで充分」  言葉にして、ストンと腑に落ちる。  他人から見てツギハギだらけの関係でも、自分にはそれしかないし叔父しかいない。 「ひたむきで健気だね」  愛する男の話をしながら、他の男の子種を体内に溢れさせるチグハグさ。 「助けたい?」 「え……」  まさか提案があるとは思わず、肩越しに振り返る。 「彼の場合は自業自得だけど」  コツ。 「っは、ぅ!」  不意に後孔を触れられ、高い声を上げる。浴衣の下では、入りきらなかったオモチャの残りが尻尾のように生えている。身動きするたび、呼吸を深くするたびに振動が腹の奥を叩く。 「上手に出せたら、残りの借金は負担してあげよう。もちろん手を使わずに」 「ほ、ひょントかッ! ひゃる!」  冬季が口を開く前に、発言を奪った叔父は詳しい内容を理解していないだろう。濁った眼をギラギラさせて、己が楽になることだけに全力を注ぐ。それが裏目になるとは欠片も頭にない。 「ひま、まで、育ててやった恩を――」 「いいのかい? やめる選択もあるよ」  大声で騒ぐ叔父を一瞥もせず、伊純は冬季に確認を取る。  このまま自分が要求を呑まなければ、叔父はどうなるのか。今まで以上にひどい状態になるのだけは想像できて、戸惑いながらも冬季は浅く顎を引く。 「そう。楽しみだね」 「ぅ、わっ! ……ぁあ!」  言葉と共に大腿を持ち上げられ、膝を開かれる。  背後から覆い被さり密着していた男に隠されていたのが、彼が身体を起こしてあぐらを組んだことで、室内の人間に冬季の状態を曝される。  左右それぞれ手足を繋がれ満足に動かせず、赤く腫らした孔にグロテスクな黒い球体が連なる、淫らな様を。 「あ、ぁ、あ、あぁぁ」 「みんな見ているよ」  大きな手のひらで臍の下薄い腹を撫でられ、異物の存在を強調される。 「ぁん、ぅあ、……んぅっ!」  やや上体を起こした仰向けで尻を突き出した、大人に介助されながら幼児が排泄をするような体位。背筋を駆け抜ける、過ぎる快感の暴力に上半身をしならせて悶えるしか術はない。重力から垂れるシリコン製の尻尾が、体内のものを道連れに引きずり出そうと動く。 「ぁ、あ、あっ、ぁァアッ!」  真っ黒なボールと先に吐き出され残っていた白濁が絡み、縁を盛り上げながらまだら色の顔を出す。排泄する姿を観察される羞恥と、いいようのない快感に思考が焼かれる。 「そう上手。出てきた」 「……ぁ、んっ」  いきみながら、ひとつ産む。糸を引き切れる。 「ッひ、ぃ!」  連動した玉が腸壁を擦り、強制的に前立腺の官能を叩いていく。白く弾ける視界。 「ぁあ、あ、あぁ……」  ぐったりと男に背を預けても許してくれず、指を入れられ腹の中をかき混ぜられる。 「もぉ、ゃだぁぁ……」  首を振り、涙を溢す。痛くない程度に顔を固定され、目を背けるのは許されない。 「ああ、見えるかい? こんなちいさな所から大きい物を産んでいるんだよ」  泣きはらし、全身を朱に染める様を。  嫌がりながらも逃れきれず快感を享受している様を逐一、鏡で、言葉で、実況される。 「……ん、ンぅうぅぅッ! あ、あぁ……」  黒い蛇のようなアナルビーズを排泄して、冬季は満身創痍だった。びっしょりと汗をかき、指一本さえ動かせない。水音を立てて落ちたオモチャが粘液に塗れていたのは、仕込まれた時の潤滑ゼリーと男の精液であると信じている。 「よく頑張った」  こめかみに受ける軽いキスすら甘い毒。汗で張り付いた髪を上げられる。  これで叔父は―― 「残りひとつだ」 「……ぇ」  姿見越しに、微笑んだ伊純と目が合う。  そうだ。確かに見せられた卵型のオモチャは半透明で、いくつも連なったものではなかった。 「あ、あ、あぁぁ」  絶望が冬季を襲う。  やっと終わったと一息入れて、次を頑張る活力は見いだせない。  脱力した冬季を裏切って、貪欲な身体は蠕動する。  チュ、クチュ。  複数を生み出し、ぬかるんだ性器は喜んで伊純の指を食む。腫れた前立腺を掠め、辿り着いた異物をコツコツと刺激される。  仕組まれた出来レース。 「……ふ、」  もう、できない。  声もなく涙を流す冬季に、珍しく悟ったらしい叔父が喚いた。 「こンの、恩知らずッ!」  畳に押さえつけられながらも威勢は衰えない。 「たかってたオンナのガキ、せっかく使えるだけ、搾り取ってやってンだ! ホンットに使えねぇヤ――」 「……ぇ?」  すべての色が褪せる。  音が消える。  壁隔てて向こう側の、別空間のできごとのように。 『たかってたオンナのガキ』  冬季は声もなく、目を見開く。  言葉の意味を掴み損ねる。それが本当ならば、自分と叔父とは血縁関係ですら、ない。  足下からガラガラと音を立てて崩れる。必死でしがみついていた関係は、年数を重ねられた虚言だった。  ――プツ。  暗闇にひとり、放り出される。  糸のように縋っていたモノが、音を立てて切れた。 「確かだよ」  痛いほどの静寂の中、伊純の声を拾う。  鏡越しではなく、のろのろと直接顔を見上げる。なぜこの男はこんなに穏やかに笑っているのだろう。 「鑑定で君たちは赤の他人であることが判明している」  そもそも叔父というのも佐々木の申告のみだった。確認をとったこともなければ、必要性もなかった。 「……な、で……?」  忘れていた言葉を、ノロノロと発する。  あらかじめ自分と叔父の関係性を知っていたのに。  なぜ、この交換条件を申し出たのか。なぜ、自分に近づいたのか。 「血縁関係がないと真実を伝えたとしても、君はただの雑音としか認識しないだろう」  言葉少なに問いかけたが、伊純は正確に汲み取ったらしい。手の内を明かされる。  遅かれ早かれ叔父から関係は切られただろうが、冬季としては一秒でも長く夢を見ていたかった。存在する理由を、必要とされている、と思いたかった。  たとえ伊純が指摘するような依存だとしても。  容赦なく男の言葉が冬季の内面を抉る。  だが、叔父に作られた都合のいい『冬季』は不要になった。 「親代わりや身代わりは真っ平だ」  男の手を差し出される。  放り出され暗闇にうずくまって泣く、子どものような自分に。 「佐々木の呪縛に絡まっている人形ではなく、素の『冬季』が欲しい」  言葉もなく、男を見つめる。  再び問われる。 「――『君はどうしたい?』」

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