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第5話

 食事は美味かった。和食の創作料理なのだろう。普段ゼリー飲料や菓子で空腹を(しの)いでいる生活なので味に詳しくないが。 「……なにやってんだ」  つぶやきは静かな部屋に溶け込む。自分以外に存在しない暗闇を、ぼんやりとちいさな明かりが照らす。無駄に広い和室の窓際に膝を立てて、組んだ腕に顔を預ける。  伊純の手前、緊張し虚勢を張っていたが正直身体は怠いし痛いし、気を抜くと瞼が落ちてくる。心地よい彼の声にはそれほど問題なかったが、自分の発する声は頭に響く。これが二日酔いかとぼんやりと思う。冬季の記憶が間違っていなければ叔父が手にしたのは一升瓶で残っていた中身は半分以上あった。感覚的には結構な時間、量を体内に流し込まれたはずだ。  前に媚薬とやらを使われた時は、ポンと記憶が抜け落ちていて散々貪られただろう形跡と共に数日満足に動けなかった。事後打ち捨てられ身体に残った精液の量はどう考えても二人分ではなかったので、複数で(およ)んだ行為だったのだろう。それに比べればあるていど記憶があって、いいのか悪いのか。 「つかれた……」  日を(また)いだとはいえ、伊純と叔父を立て続けに相手したのだ。いや、誕生日プレゼントだと一ヶ月前に相手した男とも会っていたので三人。  冬季の誕生日は流動的で、客から問われると会った日から数えて翌月を答える。飯を奢ってもらいやすく、高価なプレゼントも請え、次の約束も取り付けられる。搾取するのに慣れている叔父の発案だった。どちらにしろ贈り物は彼に取り上げられ質屋行きになるので、貰えるのならば形の残らないプレゼントの方が好みだった。  そうして積み上げる嘘に、すでに本当の自分というものもあやふやになる。  叔父によって形作られたのが、今の『冬季』。 「自分、ねぇ……」  普段ならば、こんなこと考えるヒマはない。狂ったように次々と男と身体を重ね、体力温存のために死んだように睡眠に充てる。  不意に与えられた空白の時間に、意味のないことをつらつらと思案してしまう。

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