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その頃の彼ら

*** ありえないっつーの……何なのよ、あのダサい奴は!!このアタシが1年もかけて、ようやく写楽の隣のポジションを確立したってのに、たったの一日で何の努力もせずにあっさりと写楽の横に座るなんて何様よ!?ていうか何者なのよ!! 「ちょっと、クソモヒカン!」 「な、なんだよ倉橋」 倉橋莉奈(くらはしりな)、それが可愛いアタシの可愛い名前。 アタシは写楽の前ではいつも可愛く振る舞ってるけど、写楽がいないならぶりっこする必要なんかない。 「さん、を付けなさいよこの駄犬!」 「てめぇも俺をクソモヒカンとか呼んでるんじゃねえよ!」 「写楽はそう呼んでるじゃないのよ!」 「写楽さんは特別だからいいんだよ!」 「特別とか何?キモイから!」 「うぐっ」 「言っとくけど、写楽の特別はオ・ン・ナのアタシだから。エッチだってもう何回もしてる仲なんだからね、あんたらと一緒にしないで!」 写楽にはたくさんの舎弟がいる、 入学したころ、写楽はただのデカイ1年ってだけで髪も短いし染めてないし、ピアスも開けてないし、見た感じはやけに眼光の鋭いスポーツマンにしか見えなかった。 ま、実際の写楽はスポーツなんてしないけどね。 今は髪も伸びてスポーツマンには見えないけど、印象は今でも変わらない。 でもある日、廊下ですれ違った一瞬、写楽からはタバコの臭いがした。それは一見爽やかにも見える容姿からは明らかに浮いていて、それからアタシは写楽に興味を持った。 写楽はタバコの臭いを香水とかで隠す気もないみたいで、廊下で教師によく注意されているのを見かけた。それでも全然反省した様子も見せないし、ただでさえデカイから写楽は当然校内でも悪目立ちして、あっという間にワルそうな同級生や先輩に目をつけられて呼び出されていた。 でも写楽がケンカに負けた、という噂は一切聞かなかった。  いつしか写楽の周りには人が群がるようになった。  人って言っても、ケンカで写楽に負けたクソみたいなヤンキーと、負け知らずの写楽に憧れてるクソみたいなヤンキーばっかりだけど。 写楽は一見すごく地味なのに、俳優みたいな綺麗な顔立ちをしているから、クソみたいなヤンキーに囲まれてても一人だけすごく輝いて見えた。 当然女子にもモテモテだったけど、半分は写楽を恐がって遠くから見てる女子と、アタシみたいに積極的に彼女候補に行く女子と分かれていた。 アタシは影で後者の女子を一人一人捕まえて脅しちゃったりして、写楽にアタシ以外の女が近づかないように裏工作をしてようやく堂々と写楽に近づいたってわけ。 なのに、アタシのそんな努力を踏みにじるかのような存在が現れた……。 「クソ女が!いつまでも写楽さんの彼女面してんじゃねぇよ」 赤髪のクソモヒカンを黙らせたと思ったら、今度はクモの巣デザインの坊主野郎がアタシに刃向かってきた。 「うっさいわねハゲ。いつか既成事実作って彼女どころか嫁になる予定だから。アンタたち、ずっと写楽に付いていくつもりならもっとアタシを崇めなさいよ!」  あたしは姐さんって呼ばれてもおかしくないポジションなのよ! 「ハゲじゃなくてオシャレ坊主だっつーの!つーか写楽さんがてめーみたいな庶民のオンナ相手にすっかよ。ぜってー親の決めた婚約者がいるに違いねぇからな。なんたって天下の犬神グループの長男だぜ!?」 そう、それが彼の一番の魅力なの。 「ふんっ、そうなったら別に愛人でも構わないもの!子供ができりゃあコッチのもんなのよ!」 有名な大企業、犬神グループの長男だって知ったのは後になってから。誰が流した噂か知らないけど、それは本当みたいだった。 なんでそんな御曹司がこんなバカ学校にいるのか分からないけど、社会勉強なのかしら……そうよね、きっと。 将来人の上に立つ人間だからこそ、底辺のことを知ってなきゃいけないって教育方針なのよ。でも写楽のパパは、悪い虫がつくことは心配してなかったのかしら? ま、そんなことどうでもいいの。なんにしろアタシみたいな庶民の女が成功する一番の近道よね、玉の輿ってのは。 「は、女ってマジこえぇ。写楽さんに中出しだけはしねぇように伝えとくわ」 「ちょっと余計なことしないでよ!」 本当に子供ができちゃえばいいのに、そしたら彼女どころかもっと上の存在になれるのに……めんどくさい高校にだって行かなくてもいいし、アタシは写楽だったら愛人でも本当に構わない。そう思うくらいに、彼のことが好き。 だっていまいちな稼ぎといまいちな顔の男の一番になるより、カッコよくてその上イイ身体してて、超金持ちな男の二番目三番目になるほうがよっぽどいいと思わない? ……っていうかそんなことは今はどうでもいいのよ。問題はあの謎のキノコ野郎よ!! 「アンタ達の中で、さっきの遊とかいう奴のこと詳しく知ってる奴いないの!?」 写楽自ら連れてきて、しかも自分の横に座らせるなんて、彼のそんな行動はアタシ初めて見たんだもの! 「今から調べンだよ。あんな地味なの知ってる奴が俺らン中にいるわけねぇだろ」 「ふん、この役立たず!」 「てめーこのクソアマ、いい加減にしろよ!」 ハゲがアタシにぐっと近づいてきた。暴言に我慢できなくなって殴るつもりかしら?振り上げた手を見て、アタシはニヤッと笑う。 「女に手ぇあげようとするなんてサイテ―ね?写楽が一番嫌いなことよね、弱いモノイジメってやつ」 「てめーは弱い奴じゃねーだろクソ女!」 かよわい女の子に対してなんてこというのかしら、やっぱりヤンキーなんてクズばっかりね、写楽以外。 写楽、なんであんなダッサい男をペットになんてしたのかしら?ていうかペットって何するわけ?ひたすら可愛がられたりするの?  そんなのズルイ!! でも、男が男に可愛がられるってなんかエロくない……?問題は、何で写楽がそれを許したのかってコトだけど。 写楽って、エッチはしてくれるけどなかなかアタシのアプローチにはなびかないのよね。もしかして、ホモなのかしら……。 「……」 それはそれで、アタシが奥さんでアイツが愛人ってことで、丸く収まる?……いやいや、同じ女に負けるならまだしも、男に負けるなんてプライドが許さないからぁ!! 「クソ女、お前にだけはアイツの情報掴んでも教えねぇからな!」 「はっ、物事を表面しか見てない·見えないアホ男子のアホ情報より、内面を深く観察して分析までやってのける女子の能力ナメんじゃないわよクソヤロー」 「………」 どうやらぐうの音も出ないようね。 さて、アタシはアタシであのペット君の情報を調べるとしますか! * 「おいっ金田、なんで最後倉橋に言い返さなかったんだよ!」 「お前なら言い返せるかよ?あの性悪女に」 「……」 「無理だろ」 「無理だな」 「女ってこえぇ……」

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