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名前で呼べよ

昼食を食べ終わった俺は頬づえをついて、姿勢よく座っている遊を見た。 「遊、今日の放課後なんか用事あんの?」 「あ、火木土はアルバイトしてるんです。なのでそれが用事です」 今日は火曜日だ。じゃあ週に三日はフリーってことだな。 「ふーん……つーかお前、タメ語だったり敬語だったりすんのな。統一しろよ」 昨日から気になってたんだけど。 「あ、ごめんなさい!同じ年だからどうしたらいいのかよくわからなくって。でも、ぼくは君のペットだからやっぱり敬語のほうがいいのかな?」 「別にタメ語でかまわねぇよ。俺のことは名前で呼んでいいし」 ぽり、と頭を掻いた。リナや舎弟どもはみんな俺を名前で呼ぶから、「犬神君」って言われるのがなんか慣れないのもあった。 その名字で呼ばれると居心地が悪いっていうのもある。 「えっ……写楽、くん?」 「それもっと呼びにくいだろ。写楽でいい」 俺の名前、じいさんが付けたらしいけど普通にキラキラネームだよな。 「で、でも君は僕のご主人様ってやつなのでは……」 「関係はな。呼び名はカンケーねーだろ。写楽様とでも呼びたいか?」 そう言ったら、遊は案の定また顔を真っ赤に上気させた。やばいなコレは……絶対そうやって呼びたいアレじゃねぇか。 こいつのドエム気質を舐めたらいけない。 「しゃ……写楽さま……」 「おい!ほんとに呼ぶなっ!」 俺は頬づえを崩して遊にツッコんだ。 しかもこいつ、常に上目遣いが通常運転だし!男とはいえ、マジで心臓に悪い、コイツ! 「え?どうして?」 「一応俺にだって恥という概念はあるんだよ」 うちの使用人たちは俺のことをそう呼ぶけど、さすがに同級生に様付けで呼ばれるのは抵抗がある。 「は……あははっ」 笑った……こいつの笑顔はなんかひどくホッとする。『好きだ』って言ってもらえるのも、すごく気分がいい。いや、気分がいいってのはちょっと違うか。 なんだろうな……この感覚。 「写楽くん……写楽……なんかむずかしいなぁ。君を呼び捨てなんかにして、あの人達に睨まれないかな?もうすでにだいぶ睨まれてたけど」 「宮田たちのことか?気にしなくていいぜ。あいつら一応俺の言うコトは聞くし」 「あ派手な子も?……彼女なんでしょ?」 やっぱり勘違いしてたな。舎弟の奴らは俺とリナのやりとりから、リナが俺の本命ではないことはわかってると思うが(というか本命なんてものはいない)その他のクラスメイトとかは絶対そう思ってるからな。 別にどう思われててもいいけど、何故かこいつには本当のことを知っててもらいたいと思った……俺の近くに置いておくワケだし。 別に誤解されたくないとか、そういうことじゃねぇから! ……って、俺は誰に言い訳してるんだよ。 「リナは彼女じゃねぇよ。あいつが勝手にまとわりついてるだけだ」 「え?そうなの?」 「おう」 身体の関係があるから、全くの無関係だと言うのはあまりにも最低だろうか……面倒だな。もう簡単に女は抱かないようにしよう。 誰を抱いたってイク時の気持ちよさは変わらないけど、後に残る虚しさみたいなものも変わらない。 セックスは気持ちいいけど、気持ち良さだったらオナニーと変わらない。……心から愛してる奴とセックスしたら、もっと気持ちいいんだろうか。 そもそも愛ってのがよくわかってない俺に、心から愛する奴ができるなんて思えないけど。 「写楽」 「ん?」 「あ、ごめんね。呼んだだけ」 遊はえへへ、と恥ずかしそうに笑った。昨日あんなに震えて泣いていた奴とは別人みたいだ。もう俺を恐がる様子は微塵もないし、ほんとに変わってる奴……。 「用もないのに呼ぶんじゃねぇよ」 「ごめんなさい」 「ところでお前って何のバイトしてるんだ?」 さっきから何気に気になっていた。俺を見てすぐ赤くなるこいつに、接客業なんてできんのかよって……一応ペットだし、ご主人様が様子でも見に行ってやろうかな、なんて。 「えっと、スーパーの総菜コーナーでお惣菜作ってるよ」 「なんだ、接客業じゃねぇのか」 スーパーの裏方とか、いかにもこいつらしい。料理上手にもなるはずだ。

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