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不可解な気持ち
結局ダラダラと話してたら、昼休みは終わってしまった。音楽のジジイが戻ってくる前に出ないと、少し面倒くさい。
「あの、写楽。よかったら僕、明日からお弁当多めに作ってくるから、その……」
廊下に出ると、遊がいきなりモジモジしだしたから小便でも我慢してるのかと思ったけど、違った。
「それって俺の分まで作ってくれるってことか?大丈夫なのかよ、お前んちビンボーなんじゃ……あ、いや。経済的にそんな余裕はねぇんじゃ……いや、その」
要するに無理すんなって言いたいのに、バカにしてるようにしか聞こえねえ……!!
「今家族の中でお弁当が必要なのって僕だけだから、多少材料多く使っても何も言われないんだ。毎日購買のパンじゃ味気ないでしょ?それに、写楽に美味しいって言ってもらえたの、ホントに嬉しかったから」
「そ……そうかよ」
『僕だけだから』?
父親や兄弟は弁当いらないってことか。まあ、大丈夫ならそれに越したことはない。こいつの料理は旨いし、俺としては有り難いばかりの提案だ。
シズネに頼めば弁当くらい作ってくれるんだろうけど、ガキの世話で忙しそうだしな。半分だけ血のつながった、俺の弟と妹。
あいつらが生まれた途端、俺は犬神家ではいらない人間になったから。
「それじゃあまた、明日」
「……休み時間はうちのクラスに顔出せよな」
「う、うん。移動教室あったら無理だけど」
「あと!」
「え?」
クラスに戻ろうとする遊を引き留めた。腕を引いて振り向かせた顔は、もう赤い。
「髪、染めなくていいからな」
遊の髪のサラサラな触り心地、あの感触を無くしたくないと思った。
「わ、わかった……」
「つーか染めんな。命令な」
「う、うん。わかったから、あの、その……腕を、」
どうやら腕を離してほしいらしい。確かに目立ってはいるが、こいつは目立ちたくないとかじゃなくって俺に腕を握られていることが嬉しくて恥ずかしいんだろう。
俺の行動一つでいちいちこんな風になるなんて、ほんとうに面白い。遊は本当に俺のことが好きなんだなって実感する。
「……ペットの癖に主人に命令すんなよ」
「し、してないよっ……そんな」
「する気かよ。早くも下剋上か?」
「しないから!」
まぁ本気で疑ってはいないけど。そんな真っ赤な顔してたら疑う気にもならないしな。
「ほんと、かわいいやつ……」
遊に聞こえないように、口の中だけで呟いた。俺がキスとかしたら、こいつは一体どうなるんだろう。さすがに廊下でそんなことはしねぇけど……少しだけ、興味が湧いた。
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