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誰にも言えない
***
犬神くん……写楽にお弁当美味しいって言われた、嬉しいなぁ。口を開けてあーんされたときは本当にドキドキしたけど、玉子焼きを床に落とさなくてよかった。
本当に、夢みたいだ。昨日はこんなことになるなんて、予想もしてなかった。ペットが何をするものなのか、いまいち分からないけど
「おい、ウメボシ」
「はい?」
顔を上げると、前の席の伊藤君に話しかけられていた。ちなみに今は5時限目で自習中だ。
「なに?」
「お前さあ、あの犬神写楽に一体何したんだよ。無事に帰ってきたみてーだけど」
「何って……」
告白したんだ、なんて言える筈がない。でも確かに、あの写楽と僕の接点なんて何も無いし、疑問に思うクラスメイトがいてもおかしくないだろう。
伊藤君は僕のことをウメボシって呼ぶけど、みんなが呼んでるからそう呼んでるだけで特にその他の悪意は感じない人だ。本気で悪意を持って呼んでる人なんていないけどね。
「別に、なにも」
そう言う他に、僕に選択肢はない。
「ホントかぁ?まあ、あいつ弱いモノイジメはしねぇって有名だしな。じゃあ何で昼休みに連れてかれたんだよ。リンチじゃなきゃ何されたんだ?」
「ええと……」
なんでそんなに聞きたがるんだろう……少し周りを気にしたら、周りの人も同じことを聞きたがってるみたいで、視線をちらちらと感じる。ああ、伊藤君はクラスを代表して聞く係なのかな?
「知らない」
「は!?知らないって何、お前自身の話だろ?」
「そうだけど」
他に気のきいた言い訳が見つからなくて、僕はうつむいた。
「何だよ、言うなって脅されてんならそう言えばいいのに」
――脅し?
違うよ、と言おうとして顔をあげたら、伊藤君はもう顔を前に向けていた。周りの人も「なーんだ」「やっぱりな」と言って、僕から視線を外していく。
違うのに……脅されてなんかいないのに。写楽は、こんな地味な僕にもとても優しかった。
でも、他に何て誤魔化したらいいのか頭の悪い僕にはわからなくて……結局何も言えずにうつむいて、誰も真面目にやってはいない課題に取りかかった。
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